多くのメディアが報じて注目された、生活保護の不正受給。作家の室井佑月氏は、これと同様に「ばっちりニュースで取り上げる」べき問題があると、次のように話す。

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 ちょっと前、生活保護の不正受給のことが話題になった。もちろん、不正受給はいけないことだ。嘘(うそ)ついて我々の税金を騙(だま)し取ったことになるんだから。けれど、生活保護の受給者すべてがすべて、不正受給であるかのごとき騒ぎには引いた。ほんとうに保護が必要な人だっている。その人たちは命がかかっているのだ。

 というようなことを考えながら、このニュースを観た。

『公立小中学校などの教職員の給与を国が交付する制度を巡り、七つの府県が教職員などの数の算定を誤り、平成23年度までの4年間、国から合わせて2億3千万円余りを過大に受け取っていたことが会計検査院の調べで分かりました』(10月4日、NHK)というものだ。

 職員数などの数の誤り? いやいや、調べてみたらそんな甘いもんじゃない。育児休業があった際、同じ職場の教職員が代わりを務め、臨時の要員を新たに採用していない場合でも、教職員の数が増えたように誤魔化していた。高知、栃木など4県は、臨時教職員を4県で計80人雇ったとして算定していたんだって。そんで、国は約1億1600万円を過大に負担していた。

 ほかには、特別支援学校の一部で、年度当初に子どもが一人もいないクラスを算定に含めていた。もちろん算定に含めるには、年度当初、クラスに子どもがいなきゃ駄目だ。千葉、大阪など3府県は、児童や生徒が在籍していなかった計41クラスの教職員67人分を余分に算定。国が約1億1800万円を過大に負担した。

 たちが悪いよなぁ。子供を教えるという立場の人々が、泥棒、または詐欺を犯したってことじゃん。

 義務教育の教職員給与は、国と都道府県が分担して負担している。なのに、生活保護の不正受給と比べ、こっちはあまり騒がれないのね。なぜ、生活保護費不正受給者のように、顔も名前もばっちりニュースで取り上げないのか。

 たしか、教育再生はこの国の最重要課題だと安倍首相はいっていた。

「学校教育では人間として、してはならないことをしない、集団や社会の決まりを守るなど大切な指導内容を重点化、明確化するとともに、『心のノート』も十分に活用した指導に努めるなど、一層の充実を図る」と。『心のノート』とはこの国の小・中学校で使う道徳の副教材だ。でもさ、教える先生の中に、税金詐欺や税金泥棒いるんだよ。笑かすぜ。

 むろん、先生はワルばかりじゃない。なら教育界内部から、責任の所在をはっきりさせるよう声をあげるべきだと思う。

 文科省は金を学校に返還させてそれで良しとする考えらしいが……。まあね、原発事故後、血税100億円もかけた「スピーディ」のデータを国民に隠していた文科省だものね。自分らのこと棚に上げていえるわきゃないか。

週刊朝日 2013年10月25日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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