花火にもファッションのように、トレンドがある。

「今年は“八方咲”でしょうね」

 そう話すのは、これまで日本だけで1千回以上の花火大会を見てきた、“ハナビスト”の冴木一馬さんだ。写真家として花火を撮影するだけでなく、花火師の資格を取得して世界各国の火薬の文化と歴史を研究している、いわば花火のスペシャリストだ。

 八方咲は一般的な玉のように見えるのではなく、四方八方に次々と線のように飛び散る花火。複数の色で鮮やかなグラデーションを表現できるなど、花火師の間で近年、人気が高まっている。

「新しい花火の開発からトレンドに移行するには、3年以上かかる場合が多い。つまり、最先端の花火師の技術が広く使われるようになるまでに、そのくらいの時間がかかるのです」

 一般に、花火は「洋火」と「和火」に分けられる。

 花火大会で見られるような色とりどりの花火が洋火で、明治維新以降に海外から入ってきた金属化合物を、旧来、日本にあった黒色火薬と組み合わせることで色を出せるようになった。一方、和火は木炭を燃焼させる炎色だけの黒色火薬の花火。江戸時代から続く伝統的な花火だ。

「2000年代初頭に、江戸時代の和火の復刻がはやりました。和火は色が暗いために、都心だとネオンが明るすぎて見えにくくなってしまうこともありますが、洋火とは異なる趣が楽しめるだけに、和火にも注目です」

週刊朝日 2013年7月26日号