近くて遠い隣国、北朝鮮。この「独裁国家」にも、表層からは窺(うかが)い知れない“愛”がある。2010年から12年に4度北朝鮮を訪れ、撮影をした写真家・初沢亜利(はつざわあり)が、その胸の内を語る。

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 2002年の小泉訪朝以降、「極悪非道」のイメージ一色に染められた北朝鮮。私は、その内実を知りたいと思い、4度、北朝鮮を訪問し、撮影を続けた。

 根底にあったのは「まずは体制側と一般市民を分けて考えてみよう」という思いだった。北朝鮮の一般市民が見ている風景を収める、そのための一冊を作りたい。そんな提案が北朝鮮当局に受け入れられるまでには障壁がいくつもあった。最初の訪朝ではカメラの持ち込み禁止、というあり得ない条件を提示されたが、粘り強く交渉した結果、4回目の訪朝では平壌以外の地方の撮影も許された。滞在期間は合わせて1カ月強。毎晩、案内人と酒を飲み、拉致問題、核やミサイルの問題もざっくばらんに語り合った。彼らは酔うと、1980年代に日本の方々を旅したという思い出話を繰り返した。

 平壌と違い、地方では広大な水田やトウモロコシ畑が広がっている。これだけ農地があっても、一方で国民に食料が行き届かない現実がある。極端に痩せた子供の姿も見た。地方での撮影では、そうした貧しい生活の一端も収めた。そんなときは、「消してくれ、とは言いません。でも悪意なく伝えてくれると信じています」と念を押された。体制側と板ばさみになっている案内人の複雑な思いも十分に伝わってきた。

 取材中、この国にいるであろう拉致被害者のことがしばしば頭をよぎった。果たして経済制裁の延長が拉致問題の解決につながるのであろうか? 答えは明快だ。対話をするにも交渉するにもまずは相手を冷静に知ることから。ささやかなメッセージを胸に抱きつつ、「懐かしい風景」を眺め続けた3年間だった。

週刊朝日 2013年2月1日号