2011年11月19日、大阪大学病院で加藤克秀さん(仮名)が亡くなった。B型肝炎は感染歴のある患者が免疫抑制効果の強いがん治療などによって、再び肝炎ウイルスを増殖させ死に至る危険性があるが、遺族は克秀さんがこの症例に該当しているのではないかと感じていた。しかし、医師から納得のいく説明がないまま、克秀さんを看取ることになった。

 病院が明らかにした克秀さんの検査結果の報告書によると、亡くなる1年5カ月前の10年6月17日に、一度だけB型肝炎ウイルスの遺伝子検査をしていた。これを見ると、すでにウイルスの遺伝子が増殖している兆候を示す「2.1Logcopy/mL未満であるが検出」という結果が出ていた。

 B型肝炎再活性化に関する厚労省の研究班で代表を務めた埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科の持田智(もちださとし)教授は、報告書を見て言う。

「ガイドラインに沿えば、この時点で抗ウイルス剤を投与し、その後も遺伝子の検査を続けることになります。しかし、研究班に登録された症例では、この時点で抗ウイルス剤を投与しない場合でも、ガイドラインに従って月1回の遺伝子検査を継続し、ウイルス量の増加がさらに見られた時点で治療を開始すれば、重篤な肝炎の発症を予防できています」

 こういったずさんな治療の実態が見えてくるにつれ、遺族の不信感はさらに高まっている。娘の啓子さん(仮名・42歳)は、沈痛な表情でこう話す。

「大きな問題があったにもかかわらず、病院は私たちに何の謝罪もなく、再発防止策も聞いていません。遺族の気持ちを考えない対応は、本当に許せません」

 前出の持田教授は、B型肝炎の再活性化について改めて警鐘を鳴らす。

「09年にガイドラインが発表され、同様の事例による劇症肝炎が減ることを期待していたのですが、10年の急性肝不全の全国調査では、既往感染例からの再活性化症例が9例で、過去最多でした。ガイドラインに沿って早い段階で対処すれば肝炎の重症化は十分に防げるだけに、医療関係者にもっと広くこの事実を知ってもらいたい」

週刊朝日 2012年10月19日号