ジャーナリストの田原総一朗氏は先日、大学生と領土問題について話し合う機会があったという。そして、そこで驚き、考え込んでしまった理由を次のように話す。

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 領土問題といえば、いまもっとも情勢が緊迫しているのは島根県の竹島だ。
 韓国は1952年、当時の李承晩(イスンマン)大統領が、李ラインなるものを一方的に設定し、竹島を李ラインの内側、つまり韓国側に取り込んでしまった。
 その2年後の54年、韓国は竹島を武力占拠し、武装警備員の常駐を開始した。これが実効支配の始まりで、野田首相流に言えば「不法占拠」となるわけだ。
 学生らにこうした経緯を知っているかと問うと、当然ながらと言うべきか、誰一人として知らなかった。
 そして日本と韓国の国交正常化が行われたのは65年で、当時の首相は佐藤栄作だった。このとき竹島の扱いが問題になったが、事実上棚上げされた。
 学生に佐藤栄作を知っているかと問うと、これも誰も知らない。
 もっとも、彼らが生まれたのは90年以後なので、これらは生まれる前の出来事だ。致し方ない面もあろうが、91年に起きた湾岸戦争も知らないようだった。
 私は、時代が変わったのだなと痛感した。学生たちを批判するつもりは毛頭ないのだが、考え込んでしまった。
 学生たちはそもそも歴史を知らないのだから、当然ながら竹島や尖閣諸島の問題に興味が持てるはずがない。アメリカ、日本にとって悩ましい問題である中東諸国にも、関心を持てるはずがない。日本がどのような問題を抱え、日本の政治がなにゆえこれほど混迷しているのかも、興味関心の外の出来事に過ぎないのだろう。

※週刊朝日 2012年9月21日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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