「不倫じゃないよ。俺は、次の相手を探すための試着をしてるんだって」

 友人が連れてきた男性は愉快そうに言い放った。

 彼は都内の証券会社に勤める佐伯雄介さん(仮名・29)。昨年、婚活サイトで知り合った女性(32)と結婚したのだが、結婚した後もなぜかサイトに登録し続け、"お相手"を探しているという。

 婚活サイトとは、結婚情報サービス会社などがネット上で開設している「結婚相談所」で、会員数が100万人を超えるマンモスサイトもある。

 本人確認のための書類などを送り、登録料や利用料を支払って会員になると、ほかの会員のプロフィルを閲覧できるようになる。気に入った相手がいればメールや電話でやり取りし、合意すればお見合いから結婚へと進んでいく。

 なかには、オススメの相手を紹介してくれたり、アドバイザーに相談できたり、お見合いパーティーや合コンイベントに参加できたりするサイトもある。

 佐伯さん曰く、婚活サイトの特徴は三つ。

(1)相談所と比べて安い
(2)女性が積極的
(3)嘘がつける

「婚活サイトっていっても、要は出会い系サイトと同じ。俺が登録しているサイトは本人確認も必要ないし、収入証明書や独身証明書も要らない。そこで年収をちょっと多めに書いて、独身のふりして遊ぶ相手を探してるんだ。料金は安いし、女性は積極的だし。いいことだらけってわけ」

 大手のサイトに登録するためには、免許証や住民票、卒業証明書や収入を証明する書類などが必要だ。だが、個人が運営する小規模なサイトなどでは、佐伯さんが言うように証明書なしで登録できる場合が多い。なかには、本人確認すら必要のないサイトも存在する。

 登録料は数千~数万円程度。支払い方法は月額のところもあれば、相手に連絡するたびに「連絡料」を取る場合もある。女性は無料というところも多い。

 佐伯さんが登録したサイトは、相手に連絡するたびに連絡料1050円を払い、結婚すると、「成婚料」としてサイトに2万円を支払うことになっていた。

「妻には『成婚料を払うのがもったいないから、結婚したことは黙っていよう』と言ったんだ。俺って頭いいっしょ。でも、勘違いしないでね。いまも婚活サイトに登録しているのは、不倫するためじゃなくて次を探してるだけだから。だって、もっといい女がいるかもしんないじゃん」

 そんな彼のプロフィルはこうだ。

〈29歳 証券会社勤務 年収/1千万円 身長/179センチ 体重/標準〉

 この中で嘘は一つ。年収だ。実際は半額の500万円ほどだという。このように証明書が必要ないサイトでは、いとも簡単に嘘をつくことができるのだ。

「サイトに来る相手はもれなく婚活してるんだから年収がいちばん重要になる。20代で1千万円なんてなかなかいないから、かなりの頻度で女性から『会いたい』って連絡が来る。みんな結婚したくて必死なんで、すぐやれるし、出会い系よりプロフィルが詳しいので『むだ打ち』が少ない。友達にも『やり目(セックス目的)』で登録してるヤツがいるよ。そいつ、ニートなのに『年収800万円』にしてんの(笑い)」

 その"友達"を紹介してもらった。

「年収800万円」というタテマエを武器に、婚活サイトの女性をだましているという30代の山口孝史さん(仮名)だ。

 山口さんは埼玉県の実家で暮らしている。高校を卒業してからアルバイトで生計を立てている彼のプロフィルは、
〈30歳 マスコミ業 年収/800万円 早稲田大卒都内にマンション有り〉
 となっている。

「佐伯は『不倫目的じゃない』って言ったようですが、去年、あいつに『出会い系よりこっちのほうがやれるぞ』って誘われて、婚活サイトに登録したんですよ。半信半疑だったけど、やってみたら、けっこうな確率で最後までいける。最初の女は35歳だったけど、けっこうかわいかったし、26歳のOLとやったこともありますよ」

 鼻で笑いながら、次々と"武勇伝"を披露する山口さん。コツはやはり「嘘をつくこと」だという。

「プロフィルは女性の理想を書いてるつもり。月に1人か2人はこのプロフィルに釣られて、ホテルまでついてきますよ」

 女性と会うときは佐伯さんにスーツを借りる。家にいるときはずっとテレビを見ているかネットをしているので最新のニュースに通じており、プロフィルに書いた「マスコミ業」もやすやすとこなせるのだとか。相手を見て、「テレビ番組の作家」になるか、「ファッション誌の編集者」になるかを決めるそうだ。

 相手が「必ず落としたい女」のときは、わざわざ偽の名刺を作るほどだというから、やってることは、ほぼ詐欺師。後ろめたくならないのだろうか。

「罪悪感なんてぜんぜんない。だって、高収入・高学歴に飛びつく女なんて馬鹿ですから。俺は、そういう女に馬鹿にされてきたんだ。やつらに制裁を加えているような気持ちですね」

 婚活サイトで知り合った男性が、結婚していたという女性にも話を聞けた。

 10歳の息子がいる都内在住の加藤美由紀さん(仮名・39)は、8年前に夫の浮気が原因で離婚した。

 婚活サイトの会員になったのは、今年に入ってから。友人が婚活サイトで知り合った男性とゴールインしたと聞いたからだ。

「彼女に教えてもらったサイトに登録してまもなく、50代の男性からメールでアプローチがありました。私が『バツ1だけどいいですか?』と聞くと、彼は『実は僕もバツ1なんです』と言ったので、安心して"お見合いデート"をすることにしたんです」

 実際に会ってみると、男性は長身でスタイルがよく思ったよりもステキだったとか。子どもと動物が好きだという穏やかな性格に加藤さんは惹かれていった。何度かデートを重ね、いつしか一緒に旅行するほどに仲を深めた2人。

 そんな折に、3月11日の大震災が起きた。不安に駆られた加藤さんは、
「家のなかに男性がいれば少しは安心。早く彼と結婚したい」
 と思うようになった。ある日、思い切って「息子に会ってほしい」と告げた。すると、相手は突然泣きだしてこう言ったという。

「ごめん。本当は結婚してます。妻がいます。子どもも2人います」

 男性は、既婚者だった。

「もう頭の中が真っ白になりました。私、毎晩、その人と家族になる想像をしていたくらい本気になっていたんです。彼は『妻と別れる気はないけど関係は続けたい』と言う。とても悔しかったのですが、好きになった手前、怒るに怒れず、今も関係を続けています」

 婚活していたはずが、不倫相手になってしまった加藤さん。婚活サイトでだまされないための秘訣はあるのだろうか。

 長年、大手結婚相談所でアドバイザーを務めてきた女性(50代)は、匿名を条件にこう語る。

「やはり金額が高いところほど信用性は高くなります。大手の相談所が運営しているサイトなどは登録料は割高ですが、本人確認がしっかりしていますし、ケアも充実している。また、『成婚料』を取るところは、一生懸命ゴールインさせようとしてくれる傾向にあります。安く簡単に登録できるサイトは、嘘も簡単につけるので信用度は低い。サイト自体が詐欺まがいのところもあるため、登録の際には会社の
住所や電話番号を確認しましょう」

 嘘をつくのは男性だけではない。

 横浜市に住む栗原綾乃さん(仮名)のプロフィルはこうだ。

〈28歳 OL 特技/料理〉

 しかし、これはすべて嘘。実際は、
〈36歳 家事手伝い 特技/パチンコ〉
 だとか。

 栗原さんはこう話す。

「本当のこと書いたら誰も会ってくれないよ。私は早く子どもが欲しいの。そのためだけに結婚したいの。年齢的に焦ってるのよ」

 栗原さんは以前、大手の結婚情報サービス会社の会員になっていた。

 登録する際には、2年コースの約40万円を前払いし、独身証明書と卒業証明書、収入証明書を提出した。

「全部確認されるから嘘のプロフィルは書けないのよ。それでも『趣味は料理』って書いたの。包丁なんか握ったことないけど(笑い)」

 だが、成果はなかった。

「20代か30代がいいって言ってんのに、相談所が薦める相手は50代とか60代ばっかり。アドバイザーも『条件を変えたほうがいい』とか言うし、結局、最後はアドバイザーとけんかになってやめちゃった」

 そこで婚活サイトに行き着いたという。

「婚活サイトは料金も安いし、嘘もつき放題。あれこれうるさいアドバイザーもいないし、気が楽なのよ。私、ここでうまく相手を見つけて子どもができたらすぐに離婚しようと思ってるのよねー。一度結婚したら養育費がもらえるでしょ。それと生活保護で生きていけたらなあーって。だから今、必死に、若くてお金持ちの男の精子を探してる」

 子種を欲しがる女に、不倫相手を探す男......。

 すべてがそうだとは言わないけれど、婚活サイトには不逞な輩が徘徊しているようだ。

 しかし彼らに悪気はない。今回話を聞いた"詐欺師"たちはみなこう口をそろえて言った。

「だまされるほうが悪い」

 焦りすぎて、変な相手に引っかからないようにご注意を。 (本誌・小宮山明希)


週刊朝日