8月も残りわずかとなりました。季節の移り変わりを感じる時期ですが、盛夏から引き続き華やかに咲いているサルスベリの花に注目してみましょう。別名は「百日紅」、8月29日の誕生花です。

今回は、古い歴史をもつ誕生花の由来とサルスベリにまつわる物語をご紹介します。

ギリシア・ローマ時代まで遡る「誕生花」と、価値観が反映された「花言葉」

「誕生花」とは、生まれた月日に因んだ花のこと。国や地域によってさまざまな由来があり、同じ日に複数の誕生花があることも珍しくありません。古くはギリシア・ローマ時代の神話まで遡るといわれています。当時は、自然界を司る神々がいるとされ、同じように月や日といった「時」にも神が存在すると信じられていました。そのため、毎年決まった時期に芽吹く木々や咲く花々は、神からの神秘的なメッセージを宿していると考えられていたのです。ギリシア・ローマ時代の人々のこのような思いが、誕生花が生まれたきっかけのひとつといわれています。誕生花は神との繋がりをあらわし、幸福をもたらすシンボルだったのかもしれません。

植物の花や実などに紐付けられ、その象徴的な意味をあらわす「花言葉」。日本には明治初期に、主にイギリスから伝えられました。花言葉は国や地域によって大きく異なります。それは、生活習慣や価値観の違いが花や植物に反映されている証。花言葉は、人々の生活の営みが自然と深く結び付いていることを感じさせてくれます。

サルスベリの幹は、なぜツルツルなのか?

8月29日の誕生花「サルスベリ」。「百日紅(ヒャクジツコウ)」とも呼ばれています。中国が原産で、7〜9月頃にピンクや紫、白の花を咲かせます。夏に花の見頃を迎える樹木は珍しく、貴重な存在ともいえるサルスベリ。名称の由来は「猿でも滑って落ちてしまいそうなほどツルツルの木」から。通常、木は成長すると外側にコルク層という硬い樹皮ができます。一方、サルスベリは成長すると古い皮がどんどんはがれてしまいます。あえてツルツルの状態をキープしているのは、つる植物に巻きつかれないためといわれています。あの特徴的な樹皮は、生存戦略の一環だったのですね。

サルスベリ(猿滑)という名称から連想されるのは、美しさや可憐さではなく、愛嬌のあるユニークさ。英語では、「Crape myrtle」 といい、ギンバイカ(myrtle)という花に似ていて、花弁がちりめん(crape)のように縮れていることが名称に。フランス語の「Lilas d'été 」は、夏のリラ(ライラック)の意味。どちらも、花に注目した名称ですね。ツルツルの幹に着目し、「猿も滑り落ちそうだ」という趣旨の名前を付けた日本、かなりユニークな視点といえるのではないでしょうか。

サルスベリの花言葉には「雄弁」「愛嬌」「不用意」「あなたを信じる」などがあります。それぞれどのような由来や意味があるか見ていきましょう。

「百日紅」の由来と、人々の心情を映し出す「花言葉・短歌・俳句」

「雄弁」は、枝先に花が集まって咲き、華やかで堂々としていることから。「愛嬌」「不用意」は、サルでも滑りそうなほどツルツルとした幹に因んで付けられました。

韓国に伝わる悲しい物語に由来するといわれる、「あなたを信じる」。ある娘を救った王子は、「百日後には必ず戻る」と約束して旅立ちました。ところが、戻った時にはすでに娘は亡くなっていたのです。やがて、娘の墓がある場所から木が生え花を咲かせました。その花は、百日もの間咲き続けました。この伝説が「百日紅」の由来といわれています。

日本でも、夏から秋にかけて長く花を咲かせる姿に心情を重ねた俳句や短歌が詠まれています。

散れば咲き 散れば咲きして 百日紅  加賀千代女

炎天の 地上花あり 百日紅  高浜虚子

萩の花 既に散らくも 彼岸過ぎ 猶咲き残る さるすべりかも  正岡子規

身近な街路樹や庭木として、私たちの目を楽しませてくれるサルスベリ。すでに実を結んでいる地域もありますが、もう暫く花を見られるところも多いと思います。花言葉や由来する物語を思いながら、サルスベリの木を眺めてみるのも一興でないでしょうか。

・参考文献

フルール・フルール『花言葉・花事典』池田書店

・参考サイト

花キューピット

日比谷花壇