家飲みの定番、ビール。爽快感ある喉ごしとビターな味わいは、夏の風物詩ともいえますね。お気に入りの銘柄があり、いつも定番を楽しんでいるという人も多いのではないでしょうか。一方、小規模生産者によるクラフトビールの登場で、多くの個性あふれるビールが店頭に並ぶようになりました。

今回は、原材料と製法の違いからうまれる、多彩な「ビアスタイル」をご紹介します。

世界中に100種類以上も!ビールの種類をあらわす「ビアスタイル」

「ビア(ビール)スタイル」とはビールの種類のことで、原材料の違いや使用する酵母、発祥地などによって100以上のタイプに分類されています。色、香り、味わい、アルコール度数は多岐に渡り、厳密に分類するのがむずかしいものもありますが、ビールを選ぶ時に知っておきたいのは「エール」と「ラガー」の2種類。違いは、ビールを発酵させるときに用いる酵母にあります。

エール酵母からは豊かな香りと深い味わいの「エール」が、ラガー酵母からはすっきりとしたキレのある「ラガー」がうまれます。どちらも「麦芽・ホップ・酵母・水」からつくられますが、酵母の違いによってまったく異なる味わいになるのです。

クラフトビールで注目される個性派「エール」、世界中で愛される定番「ラガー」

エール酵母を用いるのは古くからの製法で、発酵すると酵母が麦汁の表面に浮き上がってきます(上面発酵)。15〜16℃のやや高温で発酵し、発酵期間は3〜4日、その後は約2週間熟成させます。中世以降にはじまり、現在主流となっているのがラガー酵母による製法で、5℃前後の低温で発酵し、酵母がタンクの底に沈んでいきます(下面発酵)。発酵期間は7〜10日、約1か月間ゆっくり熟成させます。

下面発酵は低温で発酵するため、雑菌が繁殖しにくく管理しやすいというメリットがあります。一定の品質を保ったビールを大量に生産するのに向いてることから、ラガーは世界中で普及しました。現在、日本で流通している大手メーカーのビールもほとんどがラガーの「ピルスナー」というスタイル。世界中で最も普及し愛飲されているのが「ピルスナー」といえます。

より深いビールの世界へ。知っておきたい5つのスタイル

100種類以上あるといわれるビアスタイルから、好みの味をみつけるには?味わいの違いを知る目安となる、5つの代表的なスタイルをご紹介します。

【1】ピルスナー(Pilsner)/ラガー

19世紀半ばにチェコ・ピルゼンで誕生した、世界で最も普及しているビアスタイル。淡色でアルコール度数は低め、すっきりしたキレと爽やかな喉ごし、ホップの苦味が特徴です。ドイツから醸造士を招き、チェコのブルワーがつくり出しましたが、ドイツのラガーよりも淡い色で爽やかな味わいが人気となり、世界中に広まっていきました。よく冷やして飲むのがおすすめ。

・ピルスナー・ウルケル(チェコ)

・ミッケルズドリーム(デンマーク)

・フレンスブルガーピルスナー(ドイツ)

【2】ペールエール(Pale Ale)/エール

16世紀頃、イギリスのバートン・オン・トレント発祥の代表的なエール。かつてのビールは色の濃いものが多く、それらよりも色が淡かったことから「ペール(色が淡い)エール」と呼ばれるようになりました。琥珀色で香りが芳醇、味わい深く引き締まった苦みが特徴。冷やしすぎず、13℃位で味わってみましょう。

・フラーズロンドンプライド(イギリス)

・シエラネバダペールエール(アメリカ)

・よなよなエール(日本)

【3】IPA(India Pale Ale)/エール

ホップを大量に使用してつくられる個性あふれるビール。ホップの香りや苦みが強く、アルコール度数も高め。大航海時代、植民地だったインドに船でエールを運ぶため、保存性を高めるホップを大量に加え、糖度も高めたことから誕生しました。アメリカで始まったクラフトビールの流行を受けて、世界中で愛されるビアスタイルに。

・パンクIPA(スコットランド)

・ブアー&ブラム(オランダ)

・ストーンIPA(アメリカ)

【4】ヴァイツェン(Weizen)/エール

「Weizen」はドイツ語で小麦を意味します。ビールの麦芽は大麦を用いますが、ヴァイツェンでは最低50%以上の小麦麦芽を使います。起源は中世まで遡るといわれる、ドイツを代表するビール。フルーティで爽やかな酸味が特徴。クリーミーな泡と甘い香りは、ビールが苦手な人にもおすすめです。

・ヴァイエンシュテファンクリスタルヴァイスビア(ドイツ)

・プランクヘフェヴァイツェン(ドイツ)

・富士桜高原麦酒ヴァイツェン(日本)

【5】スタウト(Stout)/エール

「Stout」は英語で「強い」という意味。ローストした麦芽の香ばしさと苦味が特徴。クリーミーな泡とまろやかで芳醇なコクをもつ黒ビール。18世紀、「ポーター」というビアスタイルがロンドンで人気を集めていたときに、アイルランドのギネス社がポーターを模して醸造したのが「スタウト・ポーター」です。ポーターの本場ロンドンでも人気となり、現在も世界中で愛されています。

・ギネスエクストラスタウト(アイルランド)

・ライオンスタウト(スリランカ)

・インペリアルチョコレートスタウト(日本)

色、香り、味わいをゆっくり楽しみたい、個性あふれるビールの数々。好みのビアスタイルが見つかると、選ぶ楽しみも増えますね。この夏は、多彩なビールの世界を存分に楽しみましょう。

参考文献

『厳選世界のビール手帖』世界文化社

参考サイト

ヤッホーブルーイング