7月ももうすぐ終わりですね。二十四節気の「大暑」(7月23日~)は夏の最後の節気であり、次の「立秋」で暦のうえでは秋を迎えます。とはいえ、実際には暑さ厳しい時季ではありますし、今年は“真夏”の到来が遅かった分、まだまだ夏の気分を味わいたいもの。
さて、暑さがあるからこそ感じる“涼”の季語をこれまでご紹介してきました。歳時記は春夏秋冬それぞれにありますが、夏の歳時記は特に涼に関する季語が多いのが特徴です。
そこで最終の今回は、五感(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触る)のなかの(聞く)(触る)について調べてみました。

非日常がもたらす「涼」の季語

夏といえばレジャーやバカンス、海や山のさまざまな遊びができるシーズンです。季語でいうと、キャンプやプール、ヨットに登山など、休みを利用して非日常を楽しむ時季でありますね。そのなかにある「涼」を探してみました。
○マイナスイオンの宝庫「滝」
一年中見られる滝が夏の季語だなんて驚きではないですか? 日本には名瀑(めいばく)と呼ばれる滝が数多くあり、「滝100選」も制定されています。滝の魅力は、なんといってもその音。壮大な水の流れの清涼感は、いかにも夏らしく得難い魅力があります。滝が美しく見える場所を「滝殿」と呼び、納涼感を味わうのも日本らしいですね。
○ひやりとした触感が魅力「泉」「清水」
地下から湧き出る清らかな水が泉です。伏流水などがこんこんと湧き出るさまは涼しげであり、思わず手や足を浸してみたくなりますね。同じように野山や崖のようなところから流れ出るのが清水です。山清水、岩清水などと呼ばれ、登山や旅の途中で、ふと足を止めてみたくなる涼音。
○雪がつくのに夏の季語「雪渓」
高い山のくぼんだところや、深い谷間の雪が夏の間にも消えずに残っているところで、白馬岳や槍ヶ岳、立山などが有名です。夏山登山の醍醐味のひとつであり、一瞬で汗がひく涼しい風を浴びることができます。日差しが暑いのに、ザクザクというアイゼンの音も涼しげです。
○響きが涼しい「夏館(なつやかた)」
暑い夏を避けて行きたいところが、高原や避暑地です。別荘をお持ちの方もいれば、ロッジやペンションに泊まる方もいることでしょう。その総称を夏館と呼んでいます。そこは、特別な時間を過ごす特別な場所。開け放たれた窓から風が渡り、ハンモックのうえで寝転ぶなんて楽しみも。また、夏館には涼しげな響きがありますね。

ここからは日常のなかの「涼」を探してみましょう。
○自分だけの非日常「噴水」
街なかにあって涼しいもののひとつが噴水です。空に向かって噴き上げられる水、落ちてくる水、ときには虹がかかることも……。もともとは西洋庭園から生まれた季語とのこと。うだるような熱気のなか、涼しげな音に思わず吸い寄せられてしまいそうな噴水は、日常のなかの非日常空間といえるのではないでしょうか。
○音だけで楽しむ「花火」
花火はもちろん夏の代表的な季語。各地で花火大会が行われ、美しさと華やかさは夏の楽しみのひとつですね。けれども、見るだけが花火の醍醐味ではありません。どこからか聞こえる花火の音や明りに、そういえば花火の季節だな~と気づく瞬間がありませんか? 音で楽しむ花火を「遠花火(とうはなび)」と呼び、大人の涼味を感じる季語となっています。
○こんな日常も季語「夜濯(よすすぎ)」
汗をかいた衣服を一日で何度も着替える人もいるのでは? そんな衣服を夜に洗って干し、翌朝には乾いているなんてこともありますよね。昔は手洗い、現代は洗濯機で、夜涼しくなってから行う情緒ある季語は、生活の季語として残しておきたいひとつだと思います。
(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫/入門歳時記 大野林火・著 角川学芸出版/広辞苑)

熊本県鍋が滝
熊本県鍋が滝

日常と非日常を楽しむ涼

夏の季語の大半は涼に関する季語なのですが、知らなかった涼の楽しみ方を発見することができましたか?
──言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。
地球環境の変化に伴い、今までの常識が通用しない時代となりつつある中、季語なんて古い、とおっしゃる方もいるかもしれません。しかしながら、四季のある日本だからこそ感じる季語も確かに存在しています。だからこその涼のありがたみをかみしめていくのも大切な感覚なのではないでしょうか。

遠花火
遠花火