2月は残る寒さと春のきざしが行きつ戻りつ、駆け足で過ぎる季節ですね。この頃の風物詩に雛飾りがありますね。閑静な住宅街から小さな径の奥に静かにたたずむ美術館…静嘉堂文庫美術館(東京都世田谷区)では、数十年ぶりに岩崎家のお雛さまが里帰りし、それを記念した展覧会が開催されています。誕生から里帰りまでの物語とは?
※本記事の画像は1月27日ブロガー内覧会参加の上主催者の許可の元撮影・掲載しております

贅をつくした雛飾り
贅をつくした雛飾り

岩崎小彌太から孝子夫人へ贈られた雛の軌跡

雛人形というと、愛娘の成長と幸せを願って贈られるものですが、岩崎家のお雛さまは少し違います。四代目社長・岩崎小彌太(1879-1945)が、孝子夫人のために「他にはないものを」と、京都の老舗・丸平大木人形店に発注して仕立てられたものです。その美しさはまさに人形制作のピークと言われる昭和初期の技術の結晶ともいえる美しさです。内裏雛は子供仕立ての「稚児雛(ちごびな)」で、通常のお雛様より大きめです。3頭身のバランスも相まって愛らしさが際立つのが特徴です。それでいて、お顔の表情や装束の染織、着せ付け、お道具類の細工に至るまで、どれも美術工芸品としての鑑賞に値する絶品です、これらは戦後(おそらく昭和50年以後)に岩崎家から手放されました。

左が旧岩崎家、右が桐村家の展示風景
左が旧岩崎家、右が桐村家の展示風景

人形愛好家・桐村喜世美氏との出会い

ところが、市場にでたところあまりに高価(現在の貨幣価値で二億円ほど)なため、内裏雛・三人官女・五人囃子・お道具類など…別れ別れになってしまいました。その後、人形愛好家の桐村喜世美氏が内裏雛に魅了され、長い年月をかけて蒐集、すべての雛飾りが桐村家に集いました!桐村家で慈しまれ、公開されてきたお雛様ですが、「二度と散逸することのないように」との桐村氏の思いから、お雛様に縁(ゆかり)の深い静嘉堂文庫美術館に桐村氏蒐集の武者人形や犬筥(いぬばこ)などとともに寄贈され、受贈記念と冠して展覧会が開催されることになったのです。お雛さまたちが辿った長い年月を思うと感慨深いものがあります。人形への思いの深さから寄贈を決められた桐村氏のお気持ちを察するように、展覧会リーフレットに記された、「おかえりなさい」、「ありがとう」の言葉が美術館の心の表れなのだな、とこちらまであたたかな気持ちになります。

精緻な細工の数々
精緻な細工の数々

小彌太氏還暦祝いの御所人形

小彌太氏から孝子夫人へ雛が贈られたのに対し、孝子夫人から小彌太氏へ還暦の祝いとして木彫彩色の御所人形が贈られました。こちらはなんと58体の一大群像です。一つ一つの人形が表情豊かで一群の中心に座す宝船の布袋様(ほていさま)は小彌太氏に似せているという、愛情とウィットに富んでいるところが夫人のお人柄を感じますね。こちらについては、小彌太氏の還暦祝いの写真も展示されていて、ダイニングテーブルの中心に孝子夫人からのプレゼントが勢ぞろいし、祝賀の宴を囲む様子の写真が展示されています。写真の小彌太氏と布袋様を見比べたり、図案となった下絵の展示も楽しみの一つですね

小彌太氏を模した人形
小彌太氏を模した人形

その他の見どころ聴きどころ

このほかにも、静嘉堂所蔵や桐野家から受贈の人形および資料が展示されています。音声ガイドのサービスもあり、女優の八千草薫さんの和やかな語りは鑑賞をさらに深めてくれることでしょう。また、ロビーには静嘉堂文庫所蔵の器の一部が展示されていて、大きな窓ガラスから差し込む昼の日差しや夕焼け空を背景に作品を楽しむことが出来ます。筆者お勧めは野々村仁清作《色絵吉野山図茶壷》(江戸時代17世紀 重要文化財)です。色彩の優美さが季節感と調和して目に優しく映ります。窓の外には梅や水仙が咲いていますので鑑賞後はお庭を歩いてみては?おだやかな春を感じられることと思います。

野々村仁清作《色絵吉野山図茶壷》江戸時代・17世紀 重要文化財
野々村仁清作《色絵吉野山図茶壷》江戸時代・17世紀 重要文化財

概要その他

会期 1月29日~3月24日
場所 静嘉堂文庫美術館
*三井記念美術館との相互割引
恒例「三井のおひなさま展」が、静嘉堂文庫美術館の展覧会と相互割引が適用されます。
*タクシー利用で来館にキャッシュバック
駅からバスかタクシーを利用する距離にあるため、タクシー利用の来館者への嬉しいサービス
その他イベント・学芸員による解説が予定されています。
※詳細は静嘉堂文庫美術館公式サイトにてご確認ください(リンク参照)
出典・引用
静嘉堂文庫美術館 展覧会リーフレット
1月27日 ブロガー内覧会時 ギャラリートークに準ずる