鱖魚群(さけのうおむらがる)。サケが川を遡る頃、です。お寿司におにぎり、焼き魚。美味しい食材として全国的に有名なお魚、サケ! その一方で、水族館には「泳いでいるのを見ても食べようと思ったことは一度もない」お魚たちも、けっこういますよね。たとえばマンボウとか、ハリセンボンとか、ウツボとか…そもそも近所のスーパーやデパ地下の鮮魚売り場でも見たことないし…ところが‼︎ そんなお魚たちも、ある地域ではふつうに食されているようなのです。いったいどこで、どんなふうに食べられているのでしょうか?
この記事の写真をすべて見る水族館では「すぐ死ぬ魚」!? 三重県で味わってみては/マンボウ
「デリケートすぎる死因」で話題のマンボウ(気になる方は、関連リンク『マンボウ最弱伝説とは⁉︎』をどうぞ!)。水族館が飼育日数を競い合っているほど貴重な存在なのですが、一方では普通に食べられてもいるようです。じつは大昔から、日本人はマンボウを食し、漢方薬としても用いてきました。肝油はサプリメントにもなっています。そのうえマンボウは、フグの仲間…ということは、かなり美味しいのでは? というか毒があるのでは!? …しかし、マンボウからはこれまで、致死性のあるフグの毒「テトロドトキシン」が見つかったという報告はないそうです(とはいえ、売買の禁止されている地域では食べないほうが無難かも)。
巨体なのに、正面から見るとびっくりするほど平べったいマンボウ…そのため、漁師さんはマンボウをなんと畳に見立てて「1枚、2枚…」と数え、「畳3枚」などと大きさまで畳の枚数で表現するのだそうです。マンボウはたいへん美味しいのですが、水分が多くて肉が非常に腐りやすいため、都心部にはなかなか出回らないのですね。ちなみに、沖縄にいる「アカマンボウ」という魚は、名前といい体の丸い感じといいマンボウなのかと思いきや、尾ビレ背ビレもある別種なのだそうです。
マンボウの味わいは、淡白で美味。海辺では、獲れたばかりのマンボウの肉を肝で和えて酢味噌で食べるのがも〜〜たまらん!! と、漁師さんたちを虜にしているようです。刺身は瑞々しい身にほんのりした甘みがあり、イカ刺しを薄くしたような味。ゆでると鶏のササミのよう。焼いても揚げてもOK。軟骨やヒレ、内臓も食せます。また、皮下ゼラチン層でアイスキャンデーを作ると、凍らせたナタデココのようなコリコリした食感が楽しめるそうです。
そんなマンボウを食べてみたい方は、三重県を訪れてみては? 紀北町(きほくちょう)は、マンボウがシンボルの町なのです。風見鶏もマンボウ。道の駅『紀伊長島(きいながしま)マンボウ』では、気軽に味わえるマンボウの串焼きや唐揚げなどが人気です。いままで知らなかったマンボウの魅力を発見できるかもしれませんね!
針がな〜い!! 「アバサー」を沖縄県で味わってみては/ハリセンボン
ハリセンボンも、フグの仲間です(こちらは見るからにフグっぽいですね)。でも体に毒はなく、泳ぎもあんまり上手じゃない…なのになんと、天敵はいないのだそうです。その理由はもちろん、全身イガグリみたいな針があるから! 名前のとおり千本、はなくてせいぜい400本くらいだそうですが、たしかに丸呑みしたくないですよねイガグリ…それにしても、膨れて針を出して威嚇しているというのに、その姿がまんまるで面白い♪ などといって民芸品にしてしまったりする人間って(天敵)…。
しかも人間は、イガから栗を取り出すごとく針を取り除いて、ハリセンボンを美味しく食べちゃうのでした。フグと違って毒を持っていないため、特別な調理師免許を持たなくても料理できるようです。沖縄では「アバサー(おしゃべりさん。釣られると口をパクパクするので)」と呼ばれ、ソウルフードとなっています。
地元の魚屋さんには、針と一体化した皮をまるっと除去したハリセンボンが売られています。じつは皮も美味しいらしいのですが、その場合は針を裏側から全部抜く必要が…。むき身のハリセンボン1匹は身がとても小さいので、フグといってもお刺身よりは、丸ごと唐揚げや汁物・鍋物などで食されることが多いようです。
沖縄の郷土料理「アバサー汁」は、ハリセンボンの身を煮て、すりつぶした肝を加えたお味噌汁。野菜やお豆腐などを入れたりもします。フグ系のお出汁に肝のコクが加わった、滋養あふれる味。「下げ薬」といわれ、暑い沖縄では体ののぼせを下げたり胃の調子を整えたりする効果があるのだそうです。地元の居酒屋さんで、アバサーの刺身や唐揚げをおつまみにビールや泡盛を愉しめるのも、沖縄ならではですね。
カツオにも勝つ?海のギャング☆を高知県で味わってみては/ウツボ
とがった口と鋭い歯をもつ蛇みたいなお魚、ウツボ。「空洞(うつぼら)」がなまって名づけられたといいますが、たしかに水族館でもたいてい空洞に入り込んでますね! 海では大好物のタコをはじめ、エビやカニなどの硬い殻もものともせずバリバリ!近づいてくる敵は容赦なくガブリ!! 磯の浅場に住み、漁師や釣り人の餌どころか仕掛けまで台無しにするという、どう猛な海のギャング…はたして、美味しいのでしょうか? そのつもりで見ればウナギっぽい風情もなくはない…。
ウツボの旬は、10月末~3月。日本近海ではどこでも生息しているのですが、食するのは太平洋側のごく限られた地域なのだとか。そのなかでも高知県では、行事食として愛されているほどメジャーな食材! 地元の方によれば「ウツボ=土佐を代表する海産物」。な、なんと、カツオと同等の扱い⁉︎
「悪くて濃ゆい」外見からは想像できない、身の上品さ淡白さ。ウナギというより、柔らかく上質な鶏肉に近い味わいのようです。そして皮下のゼラチン質からは、じゅわっと濃厚な旨みが…その贅沢なハーモニーをもっとも楽しめるのが「ウツボのたたき」(おお、やっぱりカツオ的な)! 煮物、汁物、唐揚げなども人気です。たんぱく質やカルシウム、コラーゲンと栄養豊富で、とくに妊婦さんや、足腰・目などが弱っている人が食べると元気になるといわれています。
そんなに美味しいのに全国展開が難しい理由は…じつはウツボには小骨がとても多く、大小の骨が複雑に入り組んでいるため、取り除くのに特殊技術の習得が必要なのだそうです。ウツボは京料理の食材「ハモ」と同様、匠の技で食通をもうならせる高級魚だったようです! 高知県須崎市では、例年2月に『うつぼ祭り』が行われています。須崎ウツボ学会による大人気のウツボ料理も味わえるそうですよ。
日本にはまだまだ、地域限定のレアな食材がありそうですね。ご旅行先などで見かけたら、ぜひ未知のお魚にトライしてみてはいかがでしょうか?
〈参考文献・サイト〉
『マンボウのひみつ』澤井悦郎(岩波ジュニア新書)
『まるごと海の生きもの』木村義志 監修(学研もちあるき図鑑)
『高知まるごとネット』
http://kochi-marugoto.com/goods/cg2/156/