年末にはベートーベン「第9」の演奏もよく行われますし、お正月のテレビには「ニュー・イヤー・コンサート」などの番組もあり、年末年始はクラシック音楽に触れる機会が多い季節かもしれません。
ひと口にクラシック音楽といっても器楽曲、声楽曲、交響曲、現代音楽……とさまざまなジャンルがあります。そのなかで「古楽」と呼ばれるジャンルをご存じでしょうか。
新しい年が稼動しはじめて早5日。仕事は始まったとはいえ、まだお正月気分が少し残る年初めですし、明日からは三連休。今回はそうしたタイミングに聴きたい、「古楽」についてご紹介しましょう。

ピアノと異なり、鍵盤と内部機構が連動して弦を弾く構造になっているチェンバロ
ピアノと異なり、鍵盤と内部機構が連動して弦を弾く構造になっているチェンバロ

「バッハ以前の音楽」のことを指す「古楽」

西洋音楽の「古楽」といっても厳密な定義があるわけではありませんが、大きくいってバロック時代(16世紀末~18世紀半ば)以前の音楽を指します。
つまり古楽はは、中世(11世紀~15世紀半ば)、ルネサンス(15世紀半ば~17世紀)とバロック時代の音楽を指すことが一般的です。
西洋音楽史では「音楽の父」であるヨハン・セバスチャン・バッハ(1685~1750)がバロック音楽を集大成したとことが定説になっていますから、古楽とはバッハ以前の音楽と考えてよいでしょう。

バロック音楽の大成者バッハ(聖トーマス教会)
バロック音楽の大成者バッハ(聖トーマス教会)

古楽で使う楽器は現代のものと大きく異なっています。たとえば、この時代には現在のようなピアノはまだありませんでした。
バロック時代までの鍵盤楽器は「チェンバロ」と呼ばれ、国や様式の違いによってハープシコード、スピネット、クラヴサン、ヴァージナルなどとも呼ばれます。ただし、これらは鍵盤楽器ではありますが、鍵盤を押すと爪で弦を弾く構造になっているので、ハンマーで弦を叩くピアノとは原理の違う楽器らなります(弦を叩く原理のクラヴィコードという楽器もあります)。
また、チェロに似たヴィオラ・ダ・ガンバ、バロック・ヴァイオリン、リュート、リコーダー(ブロックフルーテ)……。これらの楽器は構造も材質も音程も楽譜も、現代のものとは異なっています。

20世紀になって起こった「古楽の復活」

この時代に作られた音楽は当時の本来の楽器で演奏すべきだ……と主張され始めたのは20世紀になってからです。
こうした古楽器(オリジナル楽器とかピリオド楽器と呼ばれます)で演奏される音楽は、当然ながら19世紀以降の現在の楽器(モダン楽器)によるものとは、ずいぶん異なる響きを持っています。
現在の耳で聴けば、音量も小さく、ややもすると古めかしい音楽に聞こえるかもしれませんが、古楽は静かで、独特の陰影と響きをもった、味わい深い趣きを持っています。
たとえば、バッハの「マタイ受難曲」やヴィヴァルディの「四季」を古楽と現代版を聴き比べてみると、同じ音楽とは思えないと思う人もいるのではないでしょうか。モダン楽器による演奏ももちろん素晴らしいのですが、曲によっては現在の楽器と解釈は、ドラマチックすぎるように感じて、古楽のほうが好ましいと感じることすらあります。
1960年代以降には、研究も進み、レオンハルト、アーノンクール、ホグウッドといった指揮者が活躍し、古楽演奏は一種のブームとなり、現在ではすっかり定着しています。
── 日本でのバロック音楽の普及に大きな役割を果たしたNHKFMの長寿番組「あさのバロック」は、現在も「古楽の楽しみ」として聴くことができます(月曜〜金曜の午前6時~6時55分)。年の初め、静かな朝に静かな音楽で心を落ち着かせて一日を始めてみませんか。

ヴェルサイユ宮殿内に残る、鍵盤楽器
ヴェルサイユ宮殿内に残る、鍵盤楽器