夜空を彩る星座は数えきれないほどあります。その一つ一つにはギリシャ神話からゆかりの名前が付けられているのですが、織姫と彦星のように「和名」もあります。ほかにはどんな和名があるでしょうか?春の大三角と夏の大三角が望める6月の空をのぞいてみましょう。

6月の南の空に輝く「真珠星」というと…

6月は、夜空は春と夏の星座が両方見えるという、なんとも贅沢な季節です。
雲の切れた夜空には春の大三角(アークトゥルス・スピカ・デネボラ)と夏の大三角(ベガ・アルタイル・デネブ)が空を分けるように輝きを放っています。
そして名残の春の大三角の中、おとめ座のスピカの和名は「真珠星(しんじゅぼし)」です。
青白く澄んだきらめきは「真珠星」の名にふさわしく、南の空をやさしく照らしています。もとは「しんじぼし」と呼ばれていたと言う説もありますが、梅雨闇にいっそう白さを際立たせる姿は夜空の「真珠」と呼ぶのにぴったりですね。
また、真珠星を「女星」と見立ておとめ座を追うような形になっている、うしかい座のアークトゥルスは「男星」とみなされています。男女ペアの星は「織姫と彦星」だけではなかったのですね。

梅雨の雨の異称「五月雨(さみだれ)」にちなんで…

梅雨の空、天頂近くに黄金からオレンジの強い光を放つ星がうしかい座のアークトゥルスです。その星座の形とともに強い光が男性的な印象から、スピカ(真珠星)の「女星」に対し「男星」とされました。さらに、アークトゥルスは複数の和名を持つ星でもあります。
雨雲の切れ間からも強い光を放つところから「五月雨星(さみだれぼし)」、麦の収穫とも時期が近く、この星が見え始めたら収穫の麦を刈ることから「麦星」「麦刈り星」ともよばれています。
6月の誕生石である「真珠」、季節の恵みである「五月雨」と「麦」を名前に持つふたつの星は「春の夫婦星」とも呼ばれています。
季節は夏になっていますが、空高く「春の名残」を星に見ることができるとは、なんとも不思議なものですね。
そして、男星が女星を追いかけるように位置する二つの星は、実際にゆっくりと近づいており、5万年後!?にやっと寄り添うことができるそうです。

中世から光を放つおとめ座…

星座は夜空以外でも輝いている…シャルトルブルーという言葉をご存知でしょうか? フランス・シャルトルのノートルダム大聖堂は、ステンドグラスの聖地と呼ばれています。そのステンドグラスの「青」をシャルトルブルーといいます。
大聖堂のステンドグラスには、キリストをはじめとしたモチーフの中に12星座のステンドグラスがあります。
そこには夜の漆黒ではなく、太陽の光によってきらめく青い色が印象的なおとめ座がいます。それは中世の人々にとって神秘的な光であったことでしょう。
梅雨の晴れ間、夜空に青白く輝く真珠星を見つけたら、そんな遠い昔に思いを馳せてみるのも一興かもしれませんね。

《参考文献》
青の美術史 小林康夫著
星の王子様天文ダイアリー 縣秀彦著