AERA dot.

第97回 祝!デビュー10周年、いきものがかり

文・小熊一実

プロフィール   バックナンバー   ミュージック・ストリート トップへ

このエントリーをはてなブックマークに追加

 いきものがかりがデビュー10周年ということで、ベスト盤が発売される。初回生産限定盤4枚組!という立派な物だ(初回仕様限定盤3枚組もある)。売り切れ次第、通常盤3枚組に変更ということだから、4枚組を手に入れたいものだ。

 今回、ミュージック・ストリートでは、いきものがかりのメンバーにインタビューをさせていただいた。インタビューの内容は、こちら

 その際、わたしも同席させていただいたので、感じたことを書いてみようと思う。もちろん、いきものがかりの大きな野外ライヴも予定されている。

 さて、そのインタビューの中で、わたしが一番驚いたのは、かれらがプロフェッショナルとしての意識が高いということだ。デビュー10周年だからあたりまえだ、というのは当たらない。かれらは、デビュー当時から変わっていないのだ。その創作姿勢は、まるで熟練の職人たちが、作品づくりに向かうものと同じ感じがしたのだ。

 インタビューの中で、ギターの水野良樹は、曲を作るときの姿勢、心構えについて、次のように語っている。

「僕らは、なるべく聴く人を主体に考えて、自分たちのメッセージを入れないんです。自分たちが表現したいことを曲にするよりは、聴いてくれる方たちが持っている物語といかに繋がるかをすごく大事に考えていて」

 わたしの知っている、ロックやフォークのミュージシャンの多くは、自分たちが世の中に対して、伝えたいこと、言いたいことを、音楽に乗せて演奏していることが多い。それが表現であり、アイデンティティだと思っている。そして、わたしたち聴く側の人たちも、その思いに共感し、ファンになっていくという構図だ。

 唐突ではあるが、音楽はなんのためにあるのか? なぜ歌うのか? という問いが浮かんだ。

 人類の最初の音楽のひとつと言われている『グレゴリオ聖歌』は、神のために創られた音楽だ。神に捧げるために創られ、演奏され、残ってきたのだ。中世になると、ヨーロッパでは、王侯貴族の儀式のための音楽が創られるよになった。たとえば、テレマンの『ターフェルムジーク(食卓の音楽)』などだ。貴族達が食事をする宴の際のBGMという目的のために創られたわけだ。また、一般庶民の中には、酒場で歌う吟遊詩人や芝居のための音楽なども生まれはじめる。

 このころまでの音楽は、なにかをするための、目的や用途のある音楽であったり、酒場で盛り上がるための音楽だったりしたわけだ。

 ところが、ベートーヴェンやショパンなどの時代になると、自分の感情や心の叫びを表現する手段として音楽が使われはじめるようになる。大雑把なくくりで恐縮だが、多くのポップスやロック、あるいはフォークとよばれる音楽は、この自己表現としての音楽に近いと、わたしは考える。

「戦争は止めよう!」と訴えたり、「あの娘が好きなんだ!」と自分の思いを歌に乗せ、民衆に訴えたり、あの娘にとどけ!とばかりに、歌ってきたのだ。そして、それらは青春の代名詞のように、同じ年頃の若者の心を振るわせたのだ。

 しかし、いきものがかりの音楽へのアプローチは違う。

 ボーカルの吉岡聖恵は、「私たちは路上ライブからスタートしているので、自分の感情を叫ぶという感じではなくて、曲の世界に入ってもらったり、曲に気持ちを重ねてもらうことで、足を止めてもらっていました。聴いてくれた人に『わかるわかる』って言ってもらえることを目指していました」と言っている。

 ギターとハーモニカの山下穂尊も、「当時はアップテンポの曲がウケなくて、バラードばかり書いていました。路上は押しつけがましいと引いちゃうんですよね。うちの場合はバラードが足を止めやすかったんだと思います」

 自分たちの考えや思いを押しつけるよりも、路上で歌いながら、どうしたら街を行きかう人々に足を止めて聴いてもらえるのか、必死に考え、工夫し、努力したのだと思う。そして、その努力の先に得た作曲の方法や表現が、世代を超えて愛される希有なアーティストになっていった理由なのだ。

 10年前、地元の厚木や海老名で路上ライヴを始めた10代のメンバーは、今年、地元で野外コンサートを開催する。

 水野と山下は、海老名市出身、吉岡は、厚木市の出身だ。場所は、陸上競技場。水野は学生の頃に、陸上記録会で使っていたところだと話す。

 開催に際して、メンバーは、市長に挨拶に行ったという。市長はとても歓迎してくれたと話す。
「勝手に路上でライブをさせてもらって、街を出て行って、それで帰ってきたらあんなふうに迎えていただけるなんて、ありがたいですね」

 自分たちの音楽を聴いてほしくて、さまざまな人たちの思いに心を馳せて作り出した音楽は、地元でも大勢のファンを喜ばせるに違いない。 [次回3/30(水)更新予定]

■いきものがかりインタビューはこちら
https://dot.asahi.com/dot/2016031500258.html
■コンサート情報はこちら
http://ikimonogakari.com/live/
■CD情報はこちら
http://ikimonogakari.com/cho-bakari/


(更新 2016.3.15 )


バックナンバー   コラム一覧   ミュージック・ストリート トップへ

このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

小熊一実(こぐま・かずみ)

 1956年生まれ。プロデューサー。このサイトの前身「JAZZ STREET」に引き続き、「Music Street」の企画編集を担当。ジャズ、ロックはもちろん、クラシック、歌謡曲からアヴァンギャルドまで、聴きまくっている音楽狂。音楽以外にも、落語会やロボット・イベント、映画も製作している。ここでは、ジャンルを超えて、趣味に走ったライヴ情報をお届けしたい。補足情報をfacebookに掲載します、見て下さい。https://www.facebook.com/kazumi.koguma