第83回 トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』を爆音で聴く! |AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

第83回 トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』を爆音で聴く!

文・小熊一実

プロフィール   バックナンバー   ミュージック・ストリート トップへ

このエントリーをはてなブックマークに追加

 トーキング・ヘッズの傑作ライヴ映画『ストップ・メイキング・センス』のブルーレイ・ディスクの国内盤が発売されるという。あれ、わたし、持ってなかったっけ? と探してみたら、DVDだった。そういえば、LDも持っていたな。

 それはさておき、これを機会に、いくつかイベントがあるようだ。そのなかで、「BD/DVD発売記念 爆音『ストップ・メイキング・センス』@WWW」というイベントのタイトルに心惹かれたので、取り上げてみたい。

 ということは、トーキング・ヘッズや『ストップ・メイキング・センス』について書く前に、まず「爆音」について書かねばならないだろう。

「BD/DVD発売記念 爆音『ストップ・メイキング・センス』@WWW」のホームページを開いてみると、そこには「爆音映画祭BAKUON FILM FESTIVAL」のタイトル・ロゴ、そして右側には、「爆音上映とは」と題された一文が載っている。まずは、それを紹介しよう。

「爆音上映とは」、「通常の映画用の音響セッティングではなく、音楽ライヴ用の音響セッティングをフルに使い、大音響の中で映画を見・聴く試みです。その爆音によって視覚までもが変容し映画そのものも違って見える。大音響でなければ聴こえてこない幽かな音を聴くという、大胆かつ繊細な上映となります。」

 う~ん、なんとも興味をそそる文章ではないか。実はわたし、大きな音で音楽を聴くのが大好きなのだ。その証として、中学生の頃の話をしよう。わたしが部屋でレッド・ツェッペリンを聴いていた時のことだ。突然、障子が開いて父が入ってきて、こう言ったのだ。

「なんてでかい音で聴いてるんだ!踏切の向こうまで聞こえているぞ!」

 踏切というのは、わたしの家から100メートルくらい離れたところにあるのだが、そこで聞こえたというのだ。当時のわたしの家は、大正時代に建てられた木造建築で、夜、雨戸を閉めなければ、わたしの部屋と外の世界を遮るものといえば、障子の紙一枚であった。だから大きな音を出せば、家の前を歩いている人には、どんな音楽を聴いているのかわかってしまうとは思うが、100メートル先の踏切の方まで聞こえているとは驚いたものだ。わたしは、その頃買ってもらったばかりのステレオを自慢に思ったものだ。

 東京に出て来てアパート暮らしをするようになってからは、音が大きいということで、隣人から何度か注意されたことがあった。それが理由で、ヘッドフォンに凝ったりしたこともある。しかし、ヘッドフォンの大音量と身体中で浴びるように聴く大音量とは、まるで違ったものなのだと、わたしは思う。

 音というのは、耳で聞くだけでなく、皮膚で感じるものなのだと、ある学者が話していた。皮膚は、人間のセンサーとしてもっとも繊細なもののひとつであり、音に関しても重要な役割をもっているといっていた。だから、コンサートに行くこと、森の中の複雑な音を皮膚で感じることなどがとても大切なのだと。人間は、無音の部屋に何時間もいると、おかしくなってしまうのだとも言っていた。
 この「爆音上映」も、「大音響でなければ聴こえてこない幽かな音を聴く」と小さな音へのこだわりもみせている。

「爆音映画祭」というタイトル、以前、吉祥寺のバウスシアターで開催していたなと思い出して、整理されていない山積みのわが蔵書の中から、ラスト・バウス実行委員会編「吉祥寺バウスシアター 映画から船出した映画館」をようやく見つけ出して開いてみた。
 この本の奥付は2014年の5月10日発行になっていて、わたしは出版されてすぐに購入した。買ったけれどパラパラとめくっただけでしまってあったのだが、今回「爆音」や『ストップ・メイキング・センス』などという言葉を探しながら読み始めて、あまりの面白さに、急ぎの仕事をほおっておいて読みふけってしまった。そしてまず思い出したのが、わたしが最初に『ストップ・メイキング・センス』を観たのが、このバウスシアターだったということだ。

 当時は、まだ「爆音」という言葉は使っていなかったと記憶する。この本に掲載されているバウスシアターの総支配人の本田拓男さんのインタビューによると、「音響も今の爆音とまではいかないけれど通常とは変えて音楽映画映画というジャンル」にしていこうと考えたという。それから、バウスシアターは芝居やライヴもやっていたので、ライヴでも使える音響装置があったというのも大きなポイントだったと思う。「爆音」というキーワードは出ていないが、音にこだわって、音楽映画を上映しようという意図があったのだとわかる。

 同誌の中のバウスシアター副支配人の西村協さんのインタビューによると、2004年にニール・ヤングとクレイジー・ホースのライヴと舞台裏を撮影した映画『イヤー・オブ・ザ・ホース』(監督・撮影は『ダウン・バイ・ロー』のジム・ジャームッシュ)を観に来ていた樋口泰人さんが、「このスピーカーならもっと大きな音もいけるんじゃないか」ということで、それまでのバウスでの音のボリュームを2倍くらいあげて『イヤー・オブ・ザ・ホース』を上映しようよ、と、無謀な発言から爆音上映が始まったと語っている。

 そのバウスシアターは、2014年5月31日に閉館してしまった。

 だが、ここで始まった「爆音映画祭」は、いまでも場所を変えて続いている。

 トーキング・ヘッズは、1974年から91年、パンクやニュー・ウェイブなどと呼ばれていた時代に活動していたバンドだ。バンドの経歴や音楽については、サイトやユー・チューブで検索してもらうのがよいだろう。
 今回のテーマの『ストップ・メイキング・センス』は、1983年ロサンゼルスでのライヴをのちに『羊たちの沈黙』をつくるジョナサン・デミが監督、84年制作、日本では、85年に公開されている。
 1曲目、ボーカルでリーダーのデヴィッド・バーンが、マイク・スタンドだけが置かれたステージにラジカセとギターを持って、ひとりで現れ、ラジカセのプレイ・ボタンを押すと、カセットに録音されたリズム・ボックスの音が流れ、それにあわせて、生ギター1本で《サイコ・キラー》を歌うところから、曲ごとにセットが作られ、メンバーが増えていき、そして、曲ごとに異なる演出が仕掛けられているステージがはじまるのだ。

 今回、この文章を書くために調べていて、新しく気づいたことがある。手書きの『STOP MAIKING SENSE』のタイトルロゴについて、独特の魅力と、どこかで見たことがあるな、と思っていたのだが、パブロ・フェローというデザイナーの作品だとわかった。この人のデザインが使われた映画に『博士の異常な愛情』がある。ここで見ていたのだ。その後には、『メン・イン・ブラック2』でも使われている。こんなところをきっかけに、映画を観ていくのも楽しいと思う。

 では、久しぶりに爆音で、映画を観に行こう。[次回5/27(水)更新予定]


■BD/DVD発売記念 爆音『ストップ・メイキング・センス』@WWW
http://www.bakuon-bb.net/stopmakingsense/


(更新 2015.5.13 )


バックナンバー   コラム一覧   ミュージック・ストリート トップへ

このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

小熊一実(こぐま・かずみ)

 1956年生まれ。プロデューサー。このサイトの前身「JAZZ STREET」に引き続き、「Music Street」の企画編集を担当。ジャズ、ロックはもちろん、クラシック、歌謡曲からアヴァンギャルドまで、聴きまくっている音楽狂。音楽以外にも、落語会やロボット・イベント、映画も製作している。ここでは、ジャンルを超えて、趣味に走ったライヴ情報をお届けしたい。補足情報をfacebookに掲載します、見て下さい。https://www.facebook.com/kazumi.koguma

あわせて読みたい あわせて読みたい