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第59回 インプットとアウトプット

文・谷川賢作

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本来なら、同じくこのサイトで連載をもつ小熊一実さんのように、まったりといきたい私。うちのオヤジの蓄音機をチラと紹介。この人のことはいずれまた (撮影/谷川賢作)

本来なら、同じくこのサイトで連載をもつ小熊一実さんのように、まったりといきたい私。うちのオヤジの蓄音機をチラと紹介。この人のことはいずれまた (撮影/谷川賢作)

もう一つ息子の影響で、ヘッドフォンを新調しました。これは良い!ついにここまできたか。感無量! (撮影/谷川賢作)

もう一つ息子の影響で、ヘッドフォンを新調しました。これは良い!ついにここまできたか。感無量! (撮影/谷川賢作)

 連載もいつのまにか(?)4年目に入りました。このところペースダウンしておりますが、しっかりと巻き返したいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 しかし、忙しいとつい自分の最近の活動ばかりを書いてしまうのですが、本当は自分のことなどどうでもよいのです。私が書いて伝えたいことは、私が確信を持って、あるいはカンを信じて、もしくは偶然発見した、すばらしい音楽&映画&舞台等を、子どものようにキラキラと「ねえねえ、これ知ってる!見てよ聴いてよ。すごいねえ~信じられな~い」と大げさな口ぶり、身ぶりで「ほめちぎ」りたいのです。そして人を巻きこむ。それが「ほめちぎ」の原点。

 その原点。いつも忘れずにいきたいところですが、どんなに忙しくても、音楽を聴き、舞台や映画に足を運び、本を読むという「インプット」を今年も大事にしていくという決意は前回書いたとおりですが、「ほめちぎ=アウトプット」する際に、文章化せねばならず、ここで「感覚を論理に移行」する作業が、当たり前なのですがたいへんなのです。(なにを言っても原稿遅れる言い訳にしかきこえない? いやん。このいけず!)

 Siriに命令するように(今は、はずしました。時々使ってる人見かけますが、大の大人が真剣に機械に話しかける姿は滑稽です。ぷぷぷ)自分の脳内感動を、まだぐにゃぐにゃなアメーバ状言語化できない感覚、それをそのまんま即座に文章化してくれる装置があれば、「ほめちぎ」原稿20本くらいはすぐに書けてしまうでしょう。と、豪語します。が、もちろんそんな装置はないので文章化に精を出そうよ、私!

 ところで正月は息子の影響で、今までまったく経過してこなかったヒップホップをNetflixの「ヒップホップ・エボリューション」というドキュメンタリー番組(全4話)を通して、本当にさーっと上っ面だけなのですが、撫でてみました。

 いやあ。深い。面白い。出てくる固有名詞(ヒップホップ界のキーパーソン&時代を作った楽曲)のどれもが、チラッときいたことあるかな程度だったのですが、あらためて対峙するとどのアーティストも皆それぞれ、技とスタイルを持っているのは当たり前(というか持ち前の好奇心と負けず嫌い魂で、オリジナリティ=人との差違を生み出していく)そして「音楽をやることはとんがったことなんだぜ。その基本の基を忘れてんじゃねえか、あんたら?」というそのクールな矜恃にやられる。

 そして70年代後期から90年代に至るアメリカの黒人差別が沸点に達していく状況と、ヒップホップ作品が生まれることの緊張感をはらんだ密接な関係。《Fuck the police》という1曲でついに行くとこまで行ってしまう。凄すぎる。絶句。思わず息子に「なあ、ジャズにもこういうのあるんだぜ、ミンガスの『フォーバス知事の寓話』な、ジャズも聴いてみ」とえばってしまうのがオッサンの悲しい性。ですが、元々ヒップホップを“撫でてみる”発端は、映画『MILES AHEAD マイルス・デイヴィス空白の5年間』を二人で観て、私は口角泡を飛ばして「なんだ、このデタラメな独りよがりな映画は。これのどこがマイルスなんだ、ふざけんな!」と激怒していた私に向かって「おれはけっこうおもしろかったぜ。マイルスいろいろ聴いてみたくなった」と言い放つ息子にぐうの音も出ず、自分のちっぽけな“空回り蘊蓄”などどうでもいい、やめよう、と我に返り「老いては子に従え」で息子のほうの世界に行ってみた、ということなのです。

 自分がふだん素通りしているジャンルの音楽って、耳をちゃんとひらかないと一本調子に聞こえるものなのですが、カチッとスイッチが入った瞬間、生き生きと躍動した音楽として目の前に立体的に立ち上がってくる。その瞬間が好きだ。かと言って朝起きたらヒップホップかけるかというと、たぶんそうはならないけど。少なくともヒップホップに対する敬意は以前とは比べものにならない。皆さんもぜひNetflixで見てください。って、私契約していなくて、正月休みで帰ってた息子のラップトップで見ていました。あはは。

 負のエネルギー(期待の高かったマイルス映画を見てがっくし鬱屈)を正のエネルギー(ヒップホップの世界を撫でてみる)にうまく変換できたのはいいのだけど、誰かあの「反面教師としてのマイルス映画」(学校で教材としてみんなで見た後に喧々諤々になる、のが唯一の活用法な気がする)往年のローズとかバースのホームランみたいに、有無を言わさず木っ端微塵に(クールに論理的に)やっつける文章にも出会いたいなあ。単に溜飲を下げたいのです。

 相変わらず批評成り立たずなんだよなあ。臭いものには蓋。オレも含めてか。ため息。[次回2/20(月)更新予定]

(更新 2017.1.30 )


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プロフィール

谷川賢作

谷川 賢作(たにかわ・けんさく)作/編曲家 ピアニスト

1960年東京生まれ。ジャズピアノを佐藤允彦に師事。演奏家として、現代詩をうたうバンド「DiVa」、ハーモニカ奏者続木力とのユニット「パリャーソ」に所属。また父である詩人の谷川俊太郎と、朗読と音楽のコンサートを全国各地で開催。80年代半ばより作・編曲の仕事をはじめ、映画「四十七人の刺客」「竜馬の妻とその夫と愛人」、NHK「その時歴史が動いた」テーマ曲等を手がける。88、95、97年に日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。2014年度船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザー。音楽を担当した最新映画は「カミハテ商店」「SAYAMAみえない手錠をはずすまで」。最新刊『げんきにでてこい』(カワイ出版)、最新CD『うたがうまれる』 谷川賢作オフィシャルサイトhttp://tanikawakensaku.com/