なんの変哲もない普通のアップライトピアノだが (撮影/谷川淳)
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なんの変哲もない普通のアップライトピアノだが (撮影/谷川淳)
休憩時間にはお客様が「被爆ピアノ」に触れます (撮影/谷川淳)
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休憩時間にはお客様が「被爆ピアノ」に触れます (撮影/谷川淳)
被爆ピアノコンサート「未来への伝言2016」
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被爆ピアノコンサート「未来への伝言2016」
被爆ピアノコンサート「未来への伝言2016」
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被爆ピアノコンサート「未来への伝言2016」

 夏の風物詩といえば、まず真っ先に思いうかぶのは「花火大会」ですが、このイベントも忘れてはいけません。すでに私も8年連続で参加させて頂いている「未来への伝言」と題された、広島の爆心地から1.8キロの民家で被爆しながらも、奇跡的に生き残ったアップライトピアノを主役としたコンサートが、今年も8月11日(木・祝)にTOKYO FMホールにて開催される。(昼の部14:30 / 夜の部18:00の2回公演)

 このピアノは所有者である広島在住の調律師、矢川光則さんが自ら運転するトラックに積まれて、遠路はるばるやってくる。長年にわたって、東京だけでなく、矢川さんとともに全国各地を旅しているこのピアノ。70歳をとうに越えているのだが、その音色は年々ますます「若返って」いくように私には感じられる。ホンキートンクでレトロな音色なのに、不思議な輝きがあるのだ。それはもちろん技術者である矢川さんのメンテナンスがすばらしいのだが、このまるで「不死鳥のようなピアノ」に、なにか特別な神秘的なものを感じてしまうのは、私だけだろうか? ピアノ自身がまだまだ「私の存在意義はある、引退できない」とつぶやいているのか?

 コンサートの「売り」の一つに、休憩時間中にお客様が舞台に上がって、自由にこのピアノを「試し弾き」できる(当たり前ですが、順番守って仲良くね)というコーナーがある。もしご来場頂けるのであれば、「HIROSHIMA」を実際に体験してしまった上に、こんなに年月を経たアンティークのピアノ。多少の傷はあるが一見ごく普通の家庭用アップライトピアノ(一つだけこのピアノの特徴は、85鍵盤ということ。高音が普通のピアノに比べて3音少ない。たったそれだけのことなのに、我々ピアニストは座る位置とか微妙に調整したりもします)。その「奇跡のピアノ」が奏でる艶のある音色と「無言の問いかけ」を、ご自身の耳と目で確かめて頂けるとうれしい。

 このコンサートの演目を一つだけ紹介します。人間国宝の三味線奏者、杵屋淨貢さんが、谷川俊太郎の詩、五つのエピグラム「罪と罰」を作曲されたのは、47年前の1969年。歌、三味線、ティンパニーといった編成で作られたその中の1曲《原爆を裁く》は、当時は内容が過激だということでラジオ等で放送中止になったとのことだが、時を経て8年前、淨貢さんの三味線、クラーク記念国際高校の生徒たちの歌、私のピアノという編成で復活再演。以来、「未来への伝言」のハイライトとして、毎年必ず演奏されることになった。高校生たちも真剣にこの曲を代々受け継いでくれて、毎年新たな気持ちで取り組んでくれている。

 「法に背けば罪になるはず 
  罪になったら罰があるはず
  だが悪いのは原爆を落とした人ではない
  落とせと命令した人だ
  イヤもっと悪いのは原爆を作った人だ
  イヤもっともっと悪いのは戦争を始めた人だ」(詩《原爆を裁く》より抜粋)

 悪を特定しようともがく気持ちは誰しもある。しかし、特定すればつかの間の安心を得られるのか? いや、そんなわけない。

 広島の『原爆死没者慰霊碑』に刻まれる言葉は「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」。自身も被爆者である、雑賀忠義、広島大教授が撰文・揮毫したものとのことだが、雑賀さんご本人の英訳が「Let all the souls here rest in peace.For we shall not repeat the evil.」evilという語が過ちと訳されているが、これは「necessayr evil=原爆投下」 を「必要悪」といまだに言い張る彼の国の人達への痛烈な皮肉に思えるのは、私だけだろうか。

 はい。今回いつになく大まじめな私でした。たまには襟を正さないと。
 暑い夏が続きます。皆様、ご自愛ください。 [次回8/22(月)更新予定]