『アワー・マン・イン・パリ』(Blue Note)
『アワー・マン・イン・パリ』(Blue Note)

 テナーサックスに抱くイメージはファンによって違うかもしれないが、やはり豊かなサウンドの特性を生かした豪快な演奏を好む人が多いのではないだろうか。「デックス」と愛称されたデクスター・ゴードンは、そうしたファンの気持ちを代弁するような演奏を得意としている。

 しかし、彼の聴き所は、単に吹きまくるだけのブローテナーではない柔軟なフレージングにある。加えて、所々に顔を出すさまざまな曲からの借用メロディのおかしさは、デックスがたくまざるユーモア精神の持ち主であることを示している。要するに洒落っ気があるということだ。実際彼は、いつも仕立ての良いスーツを見事に着こなしていたそうだ。そういう意味では、デックスは古きよき時代のジャズマン気質を備えていたと言えるだろう。

 1923年生まれと、ジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズより上の世代に属するデックスは、40年代のビ・バップ時代から活躍したが、50年代は麻薬で一時期停滞を余儀なくされる。そうした彼が1960年代にパリで吹き込んだこの作品は、早くからヨーロッパに移住していた天才ピアノ奏者、バド・パウエルとの再会セッションだ。

 というのもデックスは40年代にサヴォイ・レーベルでパウエルと共演しており、十数年を経た両巨頭の顔合わせは、まさにベテラン同士の余裕のレコーディングとなった。枯れた味わいのパウエルに、相変わらず柔軟で奔放なフレージングで対応するデックスの組み合わせは、ファンにジャズを聴く喜びを満喫させてくれる。

 ちなみにデックスは、後にパリ時代のパウエルをモデルにした、ベルトラン・タベルニエ監督の映画『ラウンド・ミッドナイト』でパウエルの役柄を演じている。思いのほか背の高いデックスは、決して演技上手とは言えなかったが、ジャズマンでしか出せない洒脱な存在感を示していた。パウエルも草葉の陰からデックスの役者振りに満足したに違いない。

【収録曲一覧】
1. スクラップル・フロム・ジ・アップル
2. ウィロー・ウィープ・フォー・ミー
3. ブロードウェイ
4. 星へのきざはし
5. チュニジアの夜

デクスター・ゴードン(ts) (allmusic.comへリンクします)

デクスター・ゴードン(ts) バド・パウエル(p) ピエール・ミシュロ(b) ケニー・クラーク(ds)