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【武漢書簡番外編】新型コロナがもたらした思わぬ変化 中国人の「日本観」
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡番外編】新型コロナがもたらした思わぬ変化 中国人の「日本観」
4月7日、京都府に中国から届いた医療用マスクの箱には「がんばろう!日本」とのメッセージが書かれていた(c)朝日新聞社  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(APO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。このコロナ禍がもたらした思わぬ変化は、中国人の日本観の変化だという。 *  *  * ■2020年3月9日 ウイルス禍で日本人に対するよい評判が沸いた(番外編)  1978年から80年代を通じて日本のテレビ・映画作品が中国を風靡したことを50歳以上の人なら誰でも知っている。「追捕(君よ憤怒の河を渡れ)」「望郷(サンダカン八番娼館 望郷)」「血疑(赤い疑惑)」「排球女将(燃えろ、アタック)」「阿信(おしん)」「姿三四郎(同)」「寅次郎的故事(男はつらいよ)」「幸福的黄手★(幸福の黄色いハンカチ/★ははばへんに白)」などなど枚挙にいとまがない。高倉健、山口百恵、三浦友和らはどこの家でも知っている日本人俳優で、その影響力と愛され方は現在人気絶頂の中国人スター、アイドルにひけを取らない。その年代の中国人が持っていた日本に対する好感度が非常に高かったことが想像できるだろう。  ところがこの10年、日本のテレビ・映画は中国の映画館チェーンのスクリーンからほとんど姿を消した。テレビには抗日ドラマが溢れかえり、80年代に若者だった、つまり日本作品に熱狂した人たちは毎晩飽きもせず抗日ドラマを見て憤慨し、残念がり、揚げ句には日本とは必ずもう一戦やらねば、と声を張り上げる。  面白いことに2019年、中米貿易戦争が激化すると中央電視台映画チャンネルは「抗米援朝(アメリカに抗し朝鮮を助ける)」の戦争映画を1週間連続して放映した。アメリカは攻撃に堪えきれず最終的には中国が勝利を勝ち取るという寓意を示しているのだ。  同時に日本映画も帰ってきた。同じように1週間連続して放映されたのは高倉健の映画作品だった。このたびの新型コロナウイルスの流行発生直後、いの一番に支援の手を差し伸べたのは日本の政府と民間だった。大量の援助を提供してくれたことで中国にはホットな議論と日本に対するよい評判が沸き起こった。  皮肉にも、巷のうわさではいくつかの製作会社が悲鳴を上げているという。彼らがこの1、2年のうちに巨費を投じて製作した抗日ドラマが全部、政府によって放映禁止となって元を取れなくなったからだそうだ。大いにありそうな話だ。 ■若年層で好感度上昇  新型コロナウイルスの流行爆発で、私たちは日本人が友好的であるばかりか気前もいいのを知って驚いた。「山川異域、風月同天(山や川は別の場所にあるが、風や月は同じ空にある意)」――これは武漢の都市閉鎖後いち早く日本から武漢に贈られたマスクを梱包した段ボール箱に書かれていた句だ。多くの中国人は、日本人が古い漢語を使う力を持っていることにも驚嘆した。  ネットでは(もちろん若い人が多い)、日本に対する好感度が上昇した。人々がその後「抗日ドラマ」を見てどんな感想を持ったかは想像するのが難しいが、ほどなく「抗日ドラマ」がテレビで放映される頻度は減るのではないかと思う。  共産党政府は「仇恨教育(敵への憎悪を高める教育の意)」に力を入れている。それは中国人自身が感情的に求めるものでもある。中国人の日本に対する見方については、私自身がいい例だ。  20年前、私が初めて日本へ出張する話をもらったとき、私は断った。もちろん日本が嫌いだったからだ。日本への敵視が中国の絶対的な主流であり、政治的にも正しいのは間違いない。テレビに毎日登場する日本人は狂暴悪辣で無慈悲に人を殺すイメージを抱かせ、むしろ恨みを持つなというほうが難しいぐらいだ。よほど理性的でない限り水には流せない。そもそも理性的でないのが中国人だ。そういうわけで過去30年のうち25年、私はずっとぶれずに日本嫌いだった。車も家電も日本製を買ったことがなかった。  しかし2014年、私はハワイへ行き休暇を過ごした。パールハーバー記念館には多くの日本人観光客がいた。その数はアメリカ人観光客と半々に見えた。みな静かに見学していた。ワイキキビーチでもバカンスを楽しむ日本人に出会った。アメリカ人に劣らぬ数だった。  中国人のロジックでは「日米必ずや一戦あり」となるはずなのだが、ひょっとして太平洋戦争はそれほど悲惨な戦いではなかったのか? 日米間の遺恨はどこへ行ってしまったのか? 私は、若いころ日本車、日本製品をけっして買わないぐらい反日だったことを思い出してとても恥ずかしくなった。 ■仮想敵のレッテル  2017年、私は初めて日本の土を踏んだ。日本が想像していた通りの文明国家であることを強く印象づけられた。いろいろな部分で私の予想を超えていた。その前の数年間の反省と慚愧がさらに重たく我が身にのしかかった。私のように自立した思考ができると自任する人間でも、中国にいては分からないのだ。文明の進歩が遺恨と責任転嫁からは生まれないと分かるのに20年を超える時間を要した。文明は進歩しなければならない。まず私たちは、文明は進歩し得るものだと信じなければならない。すでに辛く苦しい努力を積み重ね顕著な成果を上げている国民がいるのを認めなければならない。  中国に対する私の理解では、東アジアには文明国家への進化モデルが二つ、成功例としてあるが、依然として弱肉強食の社会に生きる中国人は多くの問題点から抜け出せずにいる。このたびの新型ウイルス流行で日本人が示した態度は、中国人に、とくに若い中国人に、日本人に対する新しい認識、考え方を芽生えさせた。しかし、国家装置が少し力を入れて導けば、私たちの遺恨はおそらく完全に、全部アメリカに移されるだろう。  共産党政府は永遠に仮想敵を必要とする。中米貿易戦争の勃発から、政府は日本に貼っていた仮想敵のレッテルをすでにはがし始めている。アメリカ、これが次の重大目標になるのは間違いない。残念ながら非常に多くの中国人の気持ちにぴったり合う。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/10/02 17:00
【武漢書簡10】新型コロナ勝利宣言の中国に反発「この国は命を軽視しすぎている」
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡10】新型コロナ勝利宣言の中国に反発「この国は命を軽視しすぎている」
河南省から武漢へやって来た葬儀場職員チーム(インターネットから) マスク不足からミカンの皮で作ったマスクをする武漢市民(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。阿坡は、中国の「勝利宣言」を額面通りに受け取ってはいけない、と警告する。この国は命を軽視しすぎている、と。 *  *  * ■2020年2月13日 火葬炉がフル稼働、作業員は3時間睡眠(10)  今次の災難、多くの人が多くの苦難を味わい、多くの人がそれぞれ違った方法でそれを記録していることを私は知っている。過去20日間、私はこの上ない惨劇を目にし、涙し、何日もその中にはまり込んで抜け出すことができなかった。  今日、SNSの微博(ウェイボー)で全国各地の葬儀場が湖北省と武漢を支援しているという公開情報を見た。短い言葉でも人の心を十分押しつぶす。 ■圧倒的な人手不足  心ある人がネットで探し当てたデータによると、武漢には7つの葬儀場、84台の火葬炉があり、1日最大2016の遺体を灰にすることができる。ある葬儀場責任者が外に漏らした通話の録音記録によると、1月23日から彼らの仕事量に異常が起きたという。悲惨なことに、以降全職員が1日3時間睡眠となり(通常仕事は半日)、超負荷での作業を強いられ、圧倒的に人手不足となった。  今はこの情報の背後にあるデータを推理し数字をはじき出す気にはなれないが、私は自分を不断に叱咤し、こうした息を詰まらせるような悲嘆から抜け出て、できるだけ早く何かを始めよう。  こうした惨劇が中国で頻繁に繰り返し起きたことを認めないわけにはいかない。より惨状が激しかった1962年前後の大飢饉、多くの人が悲惨な生活を強いられたが、それから58年しか経過していない。現在、何人の中国人がそれを骨に刻み肝に銘じているか? 3000万人が餓死したというのに記念碑一つなく、今に至るも何が起きたのか追究する人もない。  私たちは命を軽く扱う民族であり、死亡とは私たちにとって所詮一つの数字にすぎず、心の痛みも一時的な浅い感覚でしかなく、長い時間を要さず健忘の本性が戻ってくる。そのようにでも説明しなければ十分とは言えない。  国が門戸を開き、情報が開放され、収入が増加し、生活様式が変化した中国人。とくに若い人たちは、自分の人生をどのように歩んでいくかについて、次第に世界のいろいろな国の人と考えが一致する傾向にある。しかし、非常に残念なことに、他人の生命についての中国人の見方は依然、中世の水準に留まり、世界に通用する普遍的価値とは大きな落差がある。 ■当局発表より多いであろう死者数  新型コロナウイルスの流行による武漢の死者数は、絶対に当局発表の数字よりもはるかに大きなものである。他国の政府がこの数字に基づいて流行を分析するなら笑ってしまう。かりに各国の政府どうしの間で尊敬と理解が維持できていれば、そういう国々の支援をあてにして武漢の民間から疑問を呈する動きが起きる可能性はある。  しかし、実際には中国社会の「砕片化」、「泥砂化」により被害を受けた家庭どうしつながりを持てず、結束して真相を見つけ出すことはない。それぞれが悲しむだけで、社会全体としては真相を追究しようとする前向きの力を持ち得ない。何度も数多くの天災人災を経験した私たちは、死者数に麻痺してしまっている。死んだ人の本当の数など、個人個人にとってはほとんど意味がない。  2008年の四川大地震では、多くの小中学生が学校建設の質の悪さが原因で命を落とした。当時も民間に責任追及を目的とする調査を行う動きが出たが、当局の手段を選ばぬ妨害によってすぐに阻止された。今回も、体制の暴力体質と後進性のゆえに、民間組織が核心的な真実をえぐる資料を握ることは、なおさらありそうにない。  準備が調えば、いずれ政府はウイルス流行に対する勝利宣言を行うだろう。今次もまた紛うことなき犠牲者となった中国人は、ウイルスに対する戦勝を、国力を示す慶事と見て諸外国にひけらかすだろう。  ここまで書いて、私は慚愧と無力を覚える。それは私も私たちの一員であるからだ。この災難が私と私たちに何らかの深い影響を残すなら、明日から始めなければならない。行動を起こさねばならない。自らを救うものは救われる。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/09/30 17:00
【武漢書簡09】新型コロナウイルス「数字」を操作した中国政府への怒り
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡09】新型コロナウイルス「数字」を操作した中国政府への怒り
女性の医療スタッフは、防護設備が乏しく、勤務時間は長く家に帰れず、仕方なく自ら美しい黒髪を短く切った(インターネットから) 「船倉病院」――武漢では病床が不足し、多くの大型体育館内にベッドを並べ臨時の「船倉病院」とした(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。阿坡は、中国という国が、新型コロナウイルスによる肺炎の治療薬の登場さえも、情報操作に利用したと憤る。 *  *  * ■2020年2月13日 地元トップの更迭人事とレムデシビル(9) 「武漢市2020年2月12日0時~24時の新増病例は1万3436、累計病例は3万2994」。ロックダウン22日間後、新たな病例がこのように爆増した。新型コロナウイルスの流行は完全に制御を失ったという結論を導かせる数字に、当然ながら友人たちは私の安否をひどく心配したのだった。  武漢にあってここ数日、ウイルスの流行をずっと観察・分析してきた私は、この新増数を見ても奇怪だとは思わなかった。  私は友人たちに次のような解釈を示した。この新増数はこれまで政府がごまかし隠してきた患者数だ。もし実際の数を急いで発表しなければ、滞った実数はどんどん大きくなる。政府が最終的には武漢のウイルス感染者の総数をごまかせないとすれば、今後は毎日驚くべき新増数になるだろう。  そうなってほしくはないが、武漢市の感染者数は10万に達すると推測される。それが真の数字なら、現在の3万余の基礎の上にこれから1週間、毎日新たに数千から万に上る新増が見込まれる。 ■慚愧の念を抱く  私が言いたいのは、封鎖22日目にして武漢はほとんど死の都市になっているということだ。ほとんど誰一人動き回ることも集うこともない。新たな感染が生じる可能性はすでに最低レベルに達している。このいわゆる新増の数字は、都市封鎖以前の感染が累積して出てきたものだ。  頭にくるのは、封鎖前の54日間同様封鎖後も、政府はこのような厳しい災難に直面してなお人民を甘く見て、数字を操作し、つゆも態度を変えないことだ。しかもこの私個人も、被害者でありながら依然として習い性のように自己解読をするばかりで声を上げることはない。  怒りが収まったあと、さらに慚愧の念を抱かせたのは、午後に届いたあるニュース――湖北省の省委員会書記と省長、武漢市委員会書記の3人がともに免職となり、首をすげかえられたという発表だった。私は、この日の新感染者爆増と結び付け、やはり流行は確かに一つの転換点を迎えたと判断した。  なぜなら新任の幹部は必ず短時間のうちに局面を好転させ、このウイルスとの戦いに勝利しなければならないからだ。この時点で人事異動を発令するからには、彼らには転換点が見えているのだ。さもなければ悪化が懸念される、制御を失いかねない事態に習近平の側近を投入する必要はまったくない。 ■臨床投薬の報道がない  2月6日から武漢でレムデシビルの臨床投与開始。大きな注目を集めるこの薬は、武漢の人々の命を救う可能性のある、ひとすじのわらのような大事な手がかりと言っていい。  ところが、今に至っても臨床投薬の進展についての報道がない。2月8日から10日にかけて、レムデシビルが重症患者に対して非常に有効だという情報を医療関係者のパイプを通じていくつも得たにもかかわらず、政府およびニュース媒体はなぜ公開しないのだろうか? たとえ薬効が十分でなくても、全市民が知りたがっているのだから事実に基づく発表をするべきだ。  この疑問と今日発表された人事が結び付いて、私はさらに確信を強めた。数日と待たずレムデシビルの治療効果が発表され、ひょっとすると大量生産の開始までも告げられるのではないか、と。その後は新増数がしだいに下降、治癒した患者数は増え続け、治癒者の数はゆっくりと新増数を上回るようになるだろう。そうやって新型ウイルス流行との戦いは新しい幹部の指導のもとで勝利に終わる……。  ここまで書いて、私はまた自分の内なる邪悪さ感じた。私はなぜ彼らの考え方や段取りを熟知しているのか。そうだ、これこそ私がこの文章を書こうとするエネルギーの源だ。私も一つのウイルスなのだ。  一つの慰めは、どのように推理して見つけたかはともかく、今日になってとうとう新型ウイルス流行の転換点が現れたということだ。かりに私が推測するように、レムデシビルがよく効き、すぐに大量生産ができれば、新型ウイルス流行はそれほど心配いらなくなる。ロックダウンはなお継続されるだろうが、レムデシビルの情報はさらにしばらくの間、封鎖を続ける上での力になるだろう。この特効薬の情報は多くの人々に一晩警戒心を緩めさせるだろうから。 ■「私はウイルス」の証明  すでに多くの市民は3週間以上も家に籠って過ごしており、メンタルがやられる人も出よう。厳しい管理を無視して出歩く人が現れたら、過去76日間に及ぶ災難がもう一度繰り返されかねない。お分かりのように、これが「私はウイルス」の証明である。  私は大衆を信じてはいない。私も私たちも、私たちが黙認している政府もみな大衆を信じてはいない。大衆は自分で判断する力も自分を管理する力もないと考えている。長い時間かかって大衆はそうした力を自ら放棄し、徐々に政府を頼るようになった。逆に政府は徐々に大衆を軽んじるようになった。一種の悪循環だ。  よろしい、さらに続く蟄居の時間、心静かに理性的であるようにしよう。システム的に反省するようにしよう。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/09/28 17:00
【武漢書簡08】私たちの中にいる「もう一つ」のウイルス
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡08】私たちの中にいる「もう一つ」のウイルス
「好想出去丸」――一見、薬のようだが、武漢市民がフォトショップで作ったもの。「好想出去丸(出かけたい薬)」と「好想出去玩(遊びに出かけたい)」は音が同じ。長期にわたって閉じ込められた武漢市民のユーモア(インターネットから) いずれも市民に集会の禁止を呼びかける、対新型コロナウイルス警戒のスローガン(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。新型ウイルスの感染拡大は、国家の邪悪のみならず、自分たちの中に巣くうウイルスによるものだ、と阿坡は言う。 *  *  * ■2020年2月12日 私たちの中にもう一つのウイルスがいる(8)  ロックダウン後、17年前のSARS流行が武漢であまりひどくなかったため武漢人も武漢市当局もSARSの教訓を生かせず対応が遅れたと反省する人が少なくなかった。本当にそうなのか? 明らかにそうではない。  今回ウイルスの流行を制御できなかった原因はただ一つ、私たちが当局を赦免し、人命を最優先しない体制の行政ロジックを容認してきたからだ。  私たち自身、今もって有効な薬剤が確認されていないという状況でなければ終日びくびくと暮らしたりはしないだろうし、致命的な危機がいつ何時自分の身に降りかかってくるか分からないと切実に感じたりはしないだろう。危機が深刻であるから私たち武漢人は平気ではいられないだけなのだ。身近に危機がなければ、新型コロナウイルスが他人事であれば、誰も現状に異を唱えたりしない。 ■脳の中にいるウイルス  私たち一人ひとりの脳の中にウイルスがいる。それは今回の新型コロナウイルス同様、どこから来たものか、どのような経路を経てきたのかいまだ確定できない。しかし、一度爆発的に広がると、一度感染すると命にかかわる可能性がある。  このウイルスと新型コロナとの違いはただ一つ、急性か慢性かという点だ。それを体内から除去しなければ、たとえ予防でき制御できる災難であっても、一再ならず私たちの身に災禍として降りかかってくるだろう、我が身を含めて! それはこの世界のどこかに身を置くあなたも同じだ。私がチェックできた早送り画面のどれもがそのことを訴えている。  私がタイトルを「私はウイルス」としたのは、災禍のただ中で焦慮のあげく過激な判断に至ったからでは決してない。それは長年持ちつづけてきた思考の大爆発である。私の診断・結論が多くの人に耳目を引くための過激な物言いと映ったとしても、それは間違いなく切実な憂いであり身を切って体得したものだ。 「遠からぬ東方に一群の人あり。その膨大な数の一群の人は死に至るある種の慢性ウイルスを身に蔵している。このウイルスはいつ爆発するやもしれず、その災禍は、彼ら自身はおろか全人類に及ぶ。今次の伝染性がきわめて高い新型コロナウイルス、その伝播は速く、影形なく、誰もが望まぬような逃れようのない惨烈さで広がる。前もって早送り式でリハーサルをしたように、中国式ウイルスはおそらく人類に危害を与えるだろう」  かくのごとき災難を経て、武漢人はかくのごとき計り知れない代価を払うことになった。全世界もまた恐怖の渦に巻き込まれる。  今次の災難を経て、中国人は深刻に反省するだろうか? 私自身はすでに始めているし、同じように反省している人はいくばくかいるだろうが、中国人全体の反省が期待できるかといえば、私は非常に悲観的だ。ただ全体的反省も一人ひとりの反省からしか始まらない。他人がどうあろうと、私がまず責を負おう。 ■もはや待てない  私が悲観的になる理由は何か? これまでも何度も反省をしようとしたが、そのたびにぶつかるのは中国の膨大な人口という問題だ。毒を含んだ文化は根深く強固で、反省するのが一人から何人かになり、さらにかなりの人数に増えたとしても、国全体としては少数者たらざるを得ない。これまで私は徒労を感じ、反省を投げ出してしまった。  しかし、武漢人が深刻に反省し、一身を以て行動を始めなければ、中国が次なる災難を乗り切りたいと思ってもそれは無理だ。もはや待てない。  私は今こそホイッスルを響かせる。全中国人に聞いてもらおう。全世界に聞いてもらおう。  ずっと夜に物書きをする習慣で、この2日間も毎晩夜中の3時すぎまで書いて寝た。昼に起きると、私が関心を持ってチェックしているSNS微博(ウェイボー)が着信を知らせた。スマホを開く。安否を気遣う全国各地からの微博はいずれも一つのニュースに関心を示していた。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/09/25 17:00
ロックダウンまでに行われた国家の「邪悪」な情報操作【武漢書簡07】
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
...までに行われた国家の「邪悪」な情報操作【武漢書簡07】
李文亮医師は2019年12月30日、同僚に注意を促す微信メッセージを発し、そのため公安局から訓戒処分を受け、中国中央テレビからはデマゴーグと呼ばれた(インターネットから) 「船倉病院」――武漢では病床が不足し、多くの大型体育館内にベッドを並べ臨時の「船倉病院」とした(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。国内での一報から武漢ロックダウンまでの54日間を振り返った阿坡は、そこに国家の「邪悪」を見る。 *  *  * ■2020年2月11日 政府のでたらめな操作と、斟酌する私たち(7)  引き続き2020年に年が変わってからの時系列表を見てみよう。 ■1月1日 華南海鮮市場閉鎖 武漢市公安局がデマを広めたとして医師8人を取り調べ (注:公安局が8人を取り調べる以前に、すでに冷酷な国家マシンが原因不明の肺炎を理由に動きだしていたのは明らか。彼らが真相隠蔽を選んだとしてもなんら驚くに当たらない) ■1月2日 大量の環境衛生要員が華南海鮮市場を徹底清掃 新華病院のCT担当医師がCT異常3例発見 ■1月5日 同済病院の救急医師1人にCT異常 武漢市衛生健康委員会が患者59例発表、依然明らかな人から人への感染は未発見、医療スタッフの感染も未発見 (注:現在私たちが理解している新型コロナウイルスの感染力と感染速度からすれば、この59例という数字は絶対にでっち上げと断言できる。再度「人から人への感染は未確認」と強調しているのもパニックの発生を恐れ状況に配慮したものだ。人命に関わる事柄でありながら、「人から人への感染は未確認」という推敲に堪えないフレーズに対し、1000万都市武漢の誰一人として反応を示すことはなかった、私を含めて) ■1月6日 武漢市人民代表大会・政治協商会議開幕 新華病院の呼吸科医師1人にCT異常 新華病院で内部会議、状況を外に出せないと強調、メディアへも公表できず 中国疾病予防管理センター(中国疾病予防控制中心)が通達、2級(重大)応急対応発動 ■1月8日 国家衛生健康委員会専門家グループ、新型コロナウイルスが肺炎流行の病原と確認 ■1月10日 武漢市人民代表大会・政治協商会議閉幕 新華病院のCT医師がCT異常30例発見 同済病院のCT異常救急医師、感染確認 ■1月11日 新華病院で2例目の医療スタッフ感染 武漢市衛生健康委員会が感染確認患者41例発表、死亡1例、3日以降新たな発病例はないと強調、「人から人への感染は未確認、医療スタッフの感染も未確認」 湖北省人民代表大会・政治協商会議開幕 ■1月15日 中国疾病予防管理センター(中国疾病予防控制中心)が通達、1級(特別重大)応急対応発動 ■1月16日 新華病院の耳鼻咽喉科主任がCT異常 武漢市衛生健康委員会が新たな病例増加はないと発表、「人から人への限られた感染は排除しないが、なお人から人への感染リスクは低い」 ■1月17日 湖北省人民代表大会・政治協商会議閉幕。武漢市衛生健康委員会が12日から17日まで新たな病例増加はないと発表 (注:両会議開催中、病例増加を発表せず、人々をカッとさせる。が、この国に住む誰一人として斟酌して口にせず) ■1月18日 武漢市衛生健康委員会が病例4新増発表 新華病院のCT医師がCT異常100例発見 ■1月19日 武漢市衛生健康委員会が病例17新増発表、病原確認後累計62例 ■1月20日 新華病院のCT飽和状態に 鐘南山医師がメディアに対し「人から人へ伝染」と発表 ■1月22日 湖北省が2級応急対応発動 ■1月23日 武漢ロックダウン ■1月24日 湖北省が1級応急対応発動 ■1月25日 新華病院耳鼻咽喉科主任死亡  2019年12月1日から2020年1月23日の都市封鎖まで54日間の政府による操作を「再放送」で振り返ると、その操作がでたらめで邪悪であることが容易に見て取れる。と同時に、李文亮医師ら8人の「情報通報者」が微博の友人グループ内で微弱な警報を鳴らした以外、政府の情報に懸念を抱いたり、懸念について問いを発したりした者が人口の1千万分の一もいなかったとは、私たちは考えもしなかったのではないか。事情を知る者は8人の医師に留まらなかっただろうし、政府の情報は穴だらけだったというのに。これでは次に同じような災難に襲われたらどうなる?  一つの都市、国家を生命体と捉えるなら、私たちの免疫力はあまりに低下しているのではないか。私たちは何を以て、次なる災難を人災としない予防対策とするのだろうか。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
AERAオンライン限定新型コロナウイルス
AERA 2020/09/23 17:00
【武漢書簡06】ストップキーが押された状態の中国に「心の英雄」
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡06】ストップキーが押された状態の中国に「心の英雄」
李文亮医師が亡くなったことを知らせる微信メッセージ(インターネットから) 「役人型ウイルス」――武漢市民による一つの風刺(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。阿坡は、この新型コロナウイルスの感染拡大の責任が誰にあるのか、はっきりさせなければいけない、と思い立つ。 *  *  * ■2020年2月11日 新型コロナ流行を時系列で振り返る(6)  中国人は忘れっぽい。私を含めて。2003年のSARSによる犠牲者は何人だったか? ことの経緯はとっくに曖昧だ。2008年の四川大地震(ぶん川大地震/ぶんはさんずいに文)の犠牲者は? 定かでない。遠い上に時間的にもはるか昔だ。今回武漢で起きた新型コロナウイルスによる肺炎の流行も、人々がまだ危機にあるとはいえ、理性的に分析し今日2月11日現在確認できる情報を加味すれば最長10日から15日で、2月末ごろターニングポイントを迎えそうだと分かる。  中国人の特徴からして、ショックからおおらかな日常への立ち直りも早い。だいたい2カ月もかかることはないはずだ。  その後、このような大きな、世を震撼させた出来事であるからには、必ずや責任追及が行われるだろう。しかし、どのように責任を問うか、誰に責任を負わせるかは、もちろん最も直接的に被害を受けた私たちが決めることではない。みんなはそれを不思議とは思わない。  ただ、私だけは二度とその「みんな」の中に含まれることはないつもりだ。  過去3週間、大人口を抱える大きな図体の武漢にストップキーが押された。そう、今はほとんど中国全体がストップキーを押された状態だ。そんな中、李文亮医師は若くして亡くなった。彼は私と同様の普通の人であるが、生来すぐれた判断力を持ち、自分の属する小さな医師グループの中でウイルスへの警鐘を鳴らした。それで私たちの心の英雄になった。  私ははたと思い至った。このストップの現状を人々は見ることができ、見て理解することができるが、それを一コマ一コマ早送りモードで見るとよりはっきり見えることに。  10年後、20年後に同じような悲惨な出来事が起きれば、私たちが直面しているような場面がコマ送りで展開することだろう。それは新たなウイルスの来襲かもしれないし、水源の汚染や大きな堤防の決壊、原発の爆発かもしれないし、およそ私たちが予測し得ないなんらかの人災かもしれない。  いずれにしても私たちはそうした災害を今と同じように迎えるに違いない。過ちを悔いることもなく、災難が来襲するたびに私たちは自分が無事でよかったと思うだけだ。いつも「内部通報者」が現れる幸運を待ち望みつつ、一人ひとりの中国人は依然として今次の人災同様「丸裸で疾走する(ストリーキング)」だろう。  べつに世間を騒がせようと過激なことを言っているわけではない。  とりあえず、2月2日に私がネットで見つけた、武漢の新型ウイルス流行に関する時系列表を見てみよう。時間を2019年12月1日の時点まで巻き戻す。 ■12月1日 金銀潭病院で初の患者収容、華南海鮮市場への立ち入り歴なし ■12月10日 さらに3人発病、うち2人は華南海鮮市場への立ち入り歴なし ■12月30日 武漢市衛生健康委員会が内部通知。武漢に原因不明の肺炎発生、華南海鮮市場に関連 李文亮ら医師8人が微博の友人グループ内で同僚らに注意喚起 (注:この時点で最初の患者発生から1カ月。李文亮医師ら8人はそれぞれ善意から注意喚起を発した。それで私たちはこの新型ウイルスを理解し、1カ月間の出来事が説明できた。武漢のウイルス感染者はすでに恐るべき数に上っている) ■12月31日 華南海鮮市場を消毒 国家衛生健康委員会専門家グループが武漢に到着 武漢市衛生健康委員会が原因不明の肺炎27例をWHOに通報、「人から人への感染は未確認、医療スタッフの感染も未確認」 協和病院が呼吸器伝染病隔離エリアを設立、1フロア24床ではすぐに不足となり、随時4フロアに拡張 (注:武漢市当局が最初に情報を公開したのが医学的な究明が間に合っていない時点でないのは明らか。絶対に詐欺だ。その動機は、私たちがわざわざ知恵を絞って分析を試みるまでもない、彼らは無数の動機から一般大衆を欺こうとするものだ。問題なのは、無数の人の健康や生命に危険が及ぶしれない伝染病に直面しても、依然として慣例的に詐欺的手段を用いたことだ。それは体制の邪悪さを反映している) ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/09/21 17:00
【武漢書簡05】私たち市民は「彼ら」がうそをついているのを知っている
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡05】私たち市民は「彼ら」がうそをついているのを知っている
「内容が違法であるため閲覧できません」――政府がネット情報を大量に削除した後の状態(インターネットから) 新型コロナウイルス肉団子――これも武漢市民による苦境におけるユーモア(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(APO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。ロックダウン15日目に「目覚め」が訪れた。 *  *  * ■2020年2月2日 我が身のコロナ陰性が分かり反省する(5)  免疫力こそが新型コロナウイルスの唯一の薬であると多くの報道が繰り返し強調していた。私たちはまさに今、まがうことない災難に直面しているが、それは天災ではない。正真正銘の人災である。  もしもウイルス発見初期に、つまりロックダウン1カ月強前の12月初旬に政府がオープンで透明性の高い報道、警戒情報を出していれば、武漢の感染者数はけた外れに少なかったに違いない。武漢から流出した例の「500万人」の中にいた感染者を事前に病院に収容することもできただろうし、無症状で出発した者にも警戒情報を発し、ルールを決めて管理し、マスクを着用させていれば新型ウイルス流行の全国への蔓延を防ぎ、世界各国の発生率も大幅に低下させることができていただろう。 ■彼らの「うそ」を知っている  すでに新型肺炎で命を落とした人も、治療の甲斐なくじきにあの世に召されるだろう人も、本来は今ごろ家族、孫子とともに和気藹々と旧正月を楽しんでいたはずだ。それが突然、訳も分からず明暗分かれてしまった。死者や患者の家族が今この時どんな経験をしているのか想像できるだろうか? 他人のことを我が事同然に受け止めるなどという表現は、今や吐き気を催させる。こんな人間の惨劇を、誰が我がこと同然に受け止めることができようか!  なぜだ? なぜ中国はこのような人災をたびたび引き起こすのか? そう、私たちは彼らがうそをついているのを知っている。彼ら自身、自分がうそをついていることを分かっている。彼らは私たちが彼らのうそを知っていることさえ分かっている。しかし、それでも彼らはなおうそをつくだろう。  かりに今回のように、私を含む、武漢人一人ひとりの身に危機がもたらされるのでなければ、私たちは、私自身を含め、とっくに欺かれ、無視され、犠牲にされる状況をごくありきたりのことと捉えていただろう。  私は2月2日に自宅で14日目を無事迎えたが、それから来る日も来る日もネット上で目にしたのはすべて助けを求める声であり、家族を失った人の慟哭であり、救命の最前線にある医療スタッフの悲壮な境遇であった。圧倒的多数の人々の善良な心が基底にあるのを私は否定しない。身辺にこのような惨劇が起きると誰でも心を痛める。私も何度涙したことか。  ただ、私たち一人ひとりが刻々と危険を感じていたのだ。他人事ではない。だから、自分がトイレを通じて、下水管を通じて、エスカレーターを通じて、生活ごみを通じて、エアロゾルを通じてウイルスに感染するのではないかと心配した。いまだ特効薬が確認されていないという状況であったから、万一感染したら自分の免疫力を頼りになんとか乗り切ろうと思った。流行がコントロールを失い私たち一人ひとりが、私自身を含め、ウイルスに取り囲まれていたからこそ、このように強い怒りを発するのだ。 ■眠れない夜  しかし、こうした怒りの持続を私たちは変革のための原動力、さらには実際の行動となし得るだろうか? 断じて言う、あり得ない!  2月6日深夜、「内部通報者」李文亮医師の凶報に接して、私は深い物思いに沈んだ。それはロックダウン後初のまっとうな思考だった。その夜はほとんど眠れなかった。  それ以前の2週間、家に籠りっぱなしだった私は、ずっと部外者のような感じがしていた。武漢封鎖の暴挙は私を震え上がらせ、この10日間は慟哭、助けを求める叫び、この上ない惨劇が天地を覆ったが、どうやら本当に心を揺さぶったわけではなかったようだ。少なくともウイルス禍の中心にいる私を突き動かして何かをしたいという気にさせたわけではなかった。  私がしたことといえば、基本的な生活を満たすために必要とされることだけだった。極力外出を控え、ウイルスに感染しないように努め、有限な医療資源によけいな負担をかけないようにし、さらに規則正しい家庭内フィットネスさえ始めた。もちろんウイルスには免疫力が大事だからだ。  しかも、せいぜい3月になって暖かくなれば流行は収まるだろう、そうなったらどうやって速やかに会社を元の軌道に戻せるだろうか、などと考えていた。今から思えば、まったく恥ずかしい話だ!  2月7日早朝、徹夜で頭がぼんやりしてはいたが、私は手を尽くしてできるだけ多くの食料を調達し持久戦に打って出る準備をしなければならないと考えた。都市封鎖15日目にしてようやく真の冷静さ、すっきりとした目覚めが訪れた。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/09/18 17:00
【武漢書簡04】封鎖された大都市 SNSで天地を覆い尽くすほどの「救助」の要請
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡04】封鎖された大都市 SNSで天地を覆い尽くすほどの「救助」の要請
封鎖された住居の入り口、おそらく感染者が出たのだろう――政府による強制隔離方法(インターネットから) 武漢市民がネットに投稿した、自家製の「マスク・クッキー」(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。新型コロナウイルスによる肺炎の患者が急速に増え始めると、阿坡も自らの健康に不安を抱くようになる。 *  *  * ■2020年2月初旬 SNSで1分間に40~50人増える感染者数(4)  中国式ロジックと現行政府に対する私なりの見方からすると、流行状況は当局の発表よりもひどいのはもちろんだが、ロックダウンの決定は明らかに角を矯めて牛を殺す的な過度で大げさすぎる、軽はずみな行為に思えた。中国政府がこの種の無茶な行為をすることはさほど多くはないとはいえ、私たちが経験しつつある事態は驚くに当たらない。  封鎖に続く3日間、武漢の公共交通は全面運休となり、政府は市民に不要不急の外出を控え、公共空間では必ずマスクをするよう呼びかけた。しかるに私には楽観がきざした。武漢市当局が打ち出した対策は非常に厳しいものだが、それは、私にすれば過度に大げさな政策であり、市民がこれ以上流動しないように、必ずマスクをするように仕向けるためのものだ。だいたい2週間、長くて3週間もすれば都市封鎖は解かれるに違いない。なんといっても武漢は1000万都市だ。家に閉じ込められた1000万人の恐怖と焦慮の拡大効果は計算できないほど大きなものだ。その後難は想像し得ない――。 ■政府発表「数十倍」の感染者  それに続く急転直下の情勢変化はまったく想像できないものだった。武漢市当局が毎日発表する新たな感染者数は跳ね上がりつづけたが、この数字はもちろん信用できないもので、SNS微博(ウェイボー)上の救助要請はまさに天地を覆いつくすほど。封鎖10日ともなると微博では1分ごとに40~50人増える有様となった。  なんたることか。1月20日、つまり封鎖の3日前以前、武漢市民が知り得た情報では、このウイルスは人から人にのみ伝染し、致死率は高くないということだった。それがどうだ、現況を見るにその伝染性は非常に高く、感染者は症状が出ない状態であっても他人にうつす可能性がある。  ロックダウン以前、歩行者のマスク着用率が10パーセント以下だったことを思い出し、私はおろおろし、パニックになった。まるで全武漢市民がウイルスうようよの空気の中で1カ月もの長期間「ストリーキング(丸裸で疾走する)」をしたようなものだ。感染者の数はおそらく政府発表の数倍、数十倍に上っていることだろう!  私はびくびくしながら同僚、親しい友人が病気にかかっていないか尋ねはじめた。また、自分の過去の行動の軌跡を振り返り、飛行機に乗らなかったことを幸運と思いはじめた。機内に無症状の感染者がいたら、あるいは私自身がそうだったらどうなっていたことか。 ■焦りを覚える日々  不幸中の幸いだったのは、私が最後に外出した1月19日から14日間経った2月2日まで、ずっと家に留まって何事もなかったことだ。ウイルスに感染していなかったことになる。同僚たちもごく親しい友人たちもみな無事だった。微博の友人グループでは一人だけ高校の同級生の感染が確認された。このころになってようやく私は自分の論理的思考能力をゆっくりと取り戻してきた。  数日前からネットに爆発的に増えた情報によると、武漢の新型コロナウイルス禍は昨年2019年12月に始まり、その後1カ月余、当局は当り障りのない対応で警戒情報も出さず、市民の90パーセントはマスクもしていない状況だった。それが一転、武漢市全体の緊急動員と全国からの支援がありながら病院のベッドに空きはなく、数えきれない患者が受け入れる病院もないまま家に留まっている。明らかに1月23日の封鎖以前からの感染の累積によるものだ。  日本への里帰りから戻った日本人の感染比率から類推すると、武漢に10万人を超す感染者がいてもまったく不思議ではない。しかも、いくら全国の医療資源が続々と武漢に注ぎ込まれても、患者の収容が間に合わないようでは治療最適期を逸してしまい、その後に入院できても助からないかもしれない。  当局発表の死亡者数は信じるに足らない。ここ数日、ネット上では多くの病人が手遅れとなり感染の診断もされないまま死んでいるという報告が見られることからも、実際とは懸け離れた数字であると分かる。  ロックダウン初日の震えるほどの驚き、それに続くパニック、さらに14日間の経過。理論上は14日間の隔離期間に発熱・咳の症状がなく、幸運にもウイルスの攻撃をかわしたわけだけれども、私はいささかもうれしくなかった。家にこもって2週間、腰や背中が痛んだ。体はすっきりせず、健康には絶対の自信を持てなかった。  この時点で自分がどれほど先まで生きられるのか確信をもって言える武漢人は一人もいなかっただろうと私は思う。焦りを覚えながら、私はやっとのことで健康回復を自分に命じた。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/09/16 17:00
【武漢書簡03】人口1000万人超の大都市が震えた「ロックダウン」
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡03】人口1000万人超の大都市が震えた「ロックダウン」
5月の武漢。地下鉄の車両にはほとんど客がいない(筆者撮影) 地下鉄の車両に掲示された「距離を保とう」の文字(筆者撮影)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。多くの武漢市民にとってそうだったように、阿坡にとってもロックダウンの時は突然やってきた。 *  *  * ■2020年1月19日 最後の外出は封鎖の4日前、90%の人はマスクなし(3)  現在、2020年2月10日午前1時。私はようやくパソコンの前に座ることができた。  4日前の2月6日、夜を徹して眠れず、その後もずっと惨状の報告と悪情報を次から次に目にし、我が身は悲憤のただなかにあって、気持ちは千々に乱れ、それ以来、落ち着いて文章を書くことができなかったのだ。  今日この時に至り、2020年1月23日以来人々を震え上がらせた武漢のロックダウン(都市封鎖)も19日を数える。私はこの2週間を超える時間を麻痺と鈍感のうちに過ごしたことを恥じた。もはや先延ばしにはできない。今日こそ始めなければならない。  私の家は、いわゆる新型コロナウイルス流行の爆発地点とされる「華南海鮮市場」から直線距離で3.1キロ、今次の災難の渦の中心にあるといっていい。この2週間、ウイルスの流行は荒れ狂ったが、私自身は家にいてなんら潜在的な危険を感じることはなかった。内心では自分が「オタク」の習慣を持ち合わせていることに幸運を感じもした。 ■深刻な警戒情報なし  私は2019年12月31日に日本に飛びそこで年を越したのだが、武漢を離れる時点では武漢が流行性肺炎をはらんでいることなどまったく知らなかった。その12月31日に、当局は原因不明の肺炎の発生をWHOに通報していたが、2020年1月14日に私が武漢に戻ってからも、当局のメディアには何ら深刻な警戒情報はなかった。私は、一度会議で外出した以外は、普段の基本的な習慣として家で暮らした。  最後に外出したのは友人宅を訪問した1月19日。出がけに友人は私に言って寄こした。肺炎の流行は当局の発表よりもひどいに違いない、と。私自身の政府に対する認識からも、当然彼らは習慣的にうそをつくものと思っているから、私は慎重に地下鉄という選択肢を捨て、行き帰りはマスクをしてタクシーを使った。  友人はかつて体制内の公務員だった人で、私たちは言葉を交わしながら流行は当局の発表よりも深刻であるに違いないと確認し合った。しかし、肺炎の流行が当夜のメインの話題というわけでもなかった。実際の新型肺炎の流行を「再放送で」見直せば、1月19日は「内部通報者」李文亮医師が治療のため入院してすでに1週間が経過している。  そもそも私は2019年11月中旬に日本行きの往復航空券を2往復分、予約していた。一つは、前述した大晦日から新年にかけての滞在のためのものであり、もう一つは旧正月の時期の2020年1月23日出発、2月4日帰国の往復チケットだ。ここ何年も私は春節期間、武漢に留まらず海外へ旅行している。23日は夜便なので、前もって荷物をまとめることもなく、当日ゆっくり起きだしてそれから荷造りすればいいぐらいに考えていた。 ■届いたキャンセル情報  それ以前に武漢市がロックダウン(都市封鎖)されるのではないかという風聞を耳にしたことはあったが、内心では根も葉もないことと思っていた。空港における体温検査が厳格に行われるだろうとは予期していたが、それはよいことであるし、私は健康なのでまったく問題はないと思っていた。ところが。  1月23日午前7時すぎ、スマホのアプリに搭乗予定便のキャンセル情報が届いた。私は震え上がった。そんなことがあり得るのか、本気でロックダウンをするのか、小説や映画に出てくるような絵空事ではないのか? どうしてよりによって今日なのか、明日ではないのか?  おかしいじゃないか、ついこの18日に百歩亭エリアの人々が総出で、来る新年を祝う大パーティーが開かれ、万余の人が一緒に食事をしたのではなかったか。19日に友人宅を訪れたときだって、タクシーの運転手は私がマスクをしているのをちらりと見ても、自分がマスクをしていないことについて申し訳なさそうなそぶりは見せなかった。21日にしても、街を行く人々の90パーセントはマスクをしていなかった。どうしてかくも突然、都市全体を厳重に封鎖しなければならないのか? 武漢は人口1000万超の大都市だというのに!  毎年旧暦の大晦日ごろ、かならず里帰りのための大きな流動人口が生じ、それで私は海外へ脱出する旅行を画策するのだ。  調べてみると、武漢に籍を持つ人口は900数十万、そこにおよそ1400万の流動人口が加わる。2019年に武漢に留まり春節を祝った人はおよそ700万足らず。すなわち流動人口の大部分は春節になると武漢を離れ里帰りをする。武漢籍の人々のうち春節に旅行をするものも200~300万人にも上る。 ■重大なミスリード 「1月23日の都市封鎖の前に春節休みとウイルスの流行を理由に武漢を離れた人の数は500万」という武漢市長の発言は明らかに重大なミスリードである。実際のところ突然の都市封鎖で少なくとも200万人が武漢に閉じ込められた。私もその一人だった。そのほか300万人ぐらいが1月22日以前、事情がよく分からない状況下で武漢から流出していた。  中国で長く暮らすことによって身に付いた常識により、コロナウイルス流行の実際の状況が当局の報道よりもひどいだろうことは、当然ながら想像できた。しかしロックダウンをしなければならないほど事態はひどいのか? 落ち着いて考えてみた。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳/kukui books ※AERAオンライン限定記事
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AERA 2020/09/14 17:00
【武漢書簡02】「内部告発者」李文亮医師の死 新型コロナ「真」の恐ろしさ
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡02】「内部告発者」李文亮医師の死 新型コロナ「真」の恐ろしさ
マスク不足からミカンの皮で作ったマスクをする武漢市民(インターネットから) 雪の上に書かれた「送別李文亮」の文字。北京市民が自らのやり方で彼の死を悼んだ(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。「原因不明の肺炎」についていち早く警告を発した医師の死を知った阿坡は、罪の意識にさいなまれ始める。 *  *  * ■2020年2月6日 若い医師を死に至らしめたのは誰だ?(2)  当局が「内部通報者」李文亮医師の遺体をさいなんでいることを、なぜ私は想像できたのだろうか? 私は繰り返し自分に問うてみた。  私が病院の幹部であったら、幹部の一人であったら、私もそのような決定をし得たであろうか? なぜ私はそれほど正しく彼らを理解しているのか? 私は突然、次のように強烈に意識するに、強く断じるに至った――李医師を死に至らしめたのはウイルスではない。それは私であり、私たちであり、この国の一人ひとりである。ウイルスがうようよいる土壌からともに栄養を得ている私たち、一人の罪なき人を想像もつかない方法で殺すような体制を、力を合わせて構築した私たちだ。  理性的に考えれば、今次のウイルス流行が終息するのも時間の問題だ。事後にはきっと体裁繕いの責任追及が行われるに違いない。いわゆる「責任を負うべき連中」が引っ立てられ、私たちは怒りの言葉を吐き出すだろう。私もきっとそういう場面にふさわしい、節度ある怒声を上げるだろう。 ■ネット上での呼びかけ  それでも果てしなく、ということはありえない。その後は1年もたたないうちにみんなまた平穏な日々に戻る。さらに私たちは財貨を追い求めるレールに戻って屈託なく前を向いてはばたく。  誰も信じないかもしれないが、この国に生きるどの一人をとっても、このような体制にあってはいつでも犠牲者になり得るのである。生存できるか否かは幸運かどうかにかかっている。誰も信じないかもしれないが。  中国人は忘れっぽい。私が注意を促すまでもなく、中国人なら誰でも知っていることだ。ネット上では早々と李文亮医師の記念碑を建てようと呼びかける人がいるけれども、断言してもいい、碑の建立はあり得ない。  呼びかけるだけなら少しの善意と勇気があればいい。この点ではおおよその中国人は地球上の他の人々と変わりなく善意と勇気を持ち合わせている。しかし記念碑を建てるとなると必要になってくるのは決してあきらめない、決して妥協しない精神と行動だが、こちらは、私自身を含め私たちの多くが持ち合わせていないものだ。私たちは待つことに慣れ、そして次第に忘れる。 ■スクリーンショットの中身  一方、体制は一時たりとも行動を停止しない。見てほしい、私が目にしたスクリーンショットがある。 「武漢市中心病院の李文亮医師が死亡した件は、厳格な規範に基づく原稿のソースが求められる。自社原稿を用いて独断的に報道することは厳禁。ニュースのプッシュは不可。評論不可。煽り不可。双方向的部分については穏当で控えめな温度とし、トピックを立てることは不可。徐々にホット検索ワードから取り除き、有害な情報は厳しく管理する」  これは間違いなく微博(ウェイボー)のたぐいのメディアプラットフォームの内部規定だろう。この種の規定を設けることで、彼らの目標は必然的に達成できることになる。私はいささかの疑いも差し挟まない。  つゆほどの疑念も持たぬこと、黙認することはなんと恐ろしいことか!  新型コロナウイルスはすでにこれほど多くの人を殺し、その中には「内部告発者」李医師も含まれる。このウイルスの広がりと同時にもう一つの無形のウイルスが依然として自由自在に蔓延している。私たち一人ひとりはそのウイルスと共存しているが、この種のウイルスの恐ろしさについてはまったく意識していない。一つの急性伝染病はいまだ終息せず、もう一つのウイルスはまさにいま醸成されつつあり、いつ爆発するか誰も分からない。  もう一つのウイルスは、取り除かない限り爆発も時間の問題だ。そもそも誰もこの種のウイルスを意識することがないのであれば、どうしてウイルス駆除が提起されるだろうか? 誰かがウイルスに意識を向けたとしても、その人が進んで「内部通報者」になりたがるだろうか? この種のたいへん強力なウイルスに対して一人の「内部通報者」で足りるだろうか? ■被害者であり加害者  ここ数日、武漢のネットにはこんなフレーズが出回っている。「時代の灰が一つ誰かの頭の上に落ちれば、すなわち山のようにその人を押しつぶす」。確かにそういうふうに言うのもいいだろう。ウイルス流行のど真ん中に身をさらす武漢人はそれぞれがいくつもの惨劇を目にし、それを我が事のように受け止めてきた。  しかし私は心から好きにはなれない。このフレーズが一つの事実を的確に述べているにしても、それは一人ひとりの個人を無辜(むこ)の、寄る辺ない被害者の位置にもう一度並べ直すことにほかならず、一人ひとりが頭を抱え、涙を流したあと、心安らかに、いわゆる時代を継続させていくことになるからだ。時代というものは、私たち一人ひとりがそこに参加し作り上げていくのではないのか? 私たち一人ひとりは被害者であると同時に、加害者でもあるのだ。  よろしい、私はやるべきことを決めた。まず大胆に認めよう。私たちはみな、もちろん私自身も、身の内に毒性が非常に強いウイルスを蔵している。私は潜在的な危険性を抱えた「内部通報者」たらねばならない。今次の災難を経験しようとしまいと、その後には私と同じような「内部通報者」が中国にいくばくか現れるだろう。私は始めなければならない。 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
AERAオンライン限定新型コロナウイルス
AERA 2020/09/11 17:00
【武漢書簡01】新型コロナで武漢市民が怒りの告白「ウイルスに注意喚起した医師の死」
阿坡(A.PO) 阿坡(A.PO)
武漢書簡01】新型コロナで武漢市民が怒りの告白「ウイルスに注意喚起した医師の死」
2019年12月30日に李文亮医師が同僚らに発した微信のメッセージ(インターネットから) 武漢の病院で奮闘する看護師(インターネットから)  新型コロナウイルスによる肺炎が流行した武漢で、作家の方方氏が発表し続けた日記が世界の注目を集めた。温和で、中国共産党の権威に挑むものではまったくなかったが、流行を食い止められなかったことについて責任を追及する考えを示しただけで、中国国内で2カ月にわたり数千万のネットユーザーの袋叩きに遭い、脅迫を受けた。この「私はウイルス――武漢ロックダウン日記」は、方方氏と同じく武漢で暮らす一般市民の男性「阿坡(A.PO)」が、中国共産党を批判する反省の書として記したものだ。「一人の健全な精神を持つ中国人」として、世界に向けてお詫びの気持ちを示したいという。手記は、2020年2月26日、昨年12月に「原因不明の肺炎」についていち早く警告を発した医師の死を知ったところから始まる。 *  *  * ■2020年2月6日 ウイルスに注意喚起した医師の死  2020年2月6日午後10時すぎ、「環球時報」の微博(ウェイボー=中国のSNS。フェイスブックやツイッターのようなコミュニケーションツール。中国では一般に海外のSNSは利用できない)に、「内部通報者」李文亮医師が午後9時30分武漢中心病院で救急処置の甲斐なく死亡したという情報が流れた。  私は目を涙で潤ませながらこの情報をシェアしたが、そこに「対不起(ごめんなさい)」の3文字を書き加えた。震えるほどの驚き、胸が痛むほどの残念さと同時に私がまず感じたのは「ごめんなさい」だったからだ。  しかし、それはネット上にあっという間に湧き上がった「彼らは李医師にお詫びしてしかるべきだ、われわれは李医師に感謝してしかるべきだ」という反応とは異なるものだった。私は、個人としてではなく中国人全体が李医師に対しお詫びしてしかるべきだと思ったのだ。なぜなら、この私を含む中国人全体が長らく無視し、仕方がないと許し、黙認し、賛美さえしたでたらめな体制が李医師を殺したのだから。 ■新型ウイルスの注意喚起  彼は2019年12月30日、微博の友人グループ内で同僚らに新型コロナウイルスについて注意喚起を行った8人の医師の一人。その後、当局の取り調べを受けた。  まだ34歳。子ども一人、双子を宿した身重の妻、彼同様コロナウイルスに感染し治療中の両親を残して世を去った。かくのごとき惨劇は、とがった氷柱が心臓を刺し貫くように私に痛みを与え、自分がばらばらになるような感覚を与え、この身が中国人全体の一部であることに深い慚愧の念を抱かせた。 「本日DNA検査の結果が陽性と判明。もやもやは晴れた。とうとう診断が確定した」――これは李文亮医師が2月1日に書き込んだ微博のメッセージであり、あろうことか人生最後のメッセージとなったものだ。  どうして診断確定からわずか5日で世を去らねばならなかったのか? 若い世代は免疫力が強く治癒率が高いのではなかったか? それより上の世代でも少なからぬ感染者が治癒し退院しているのではないのか? どうして自身医師たるものが十分な医療資源を得られなかったのか? 適切な治療を十分に受けられずあっという間に生を終えねばならなかったのか? ■8人の「内部通報者」  私はむしろ疑念を持ち始めた。李医師は治療の過程で不当に扱われたのではないか、と。李医師は1月12日の時点ですでに発熱のため入院していたからだ。と同時に、こうも考えた。李医師は訓戒処分を受けた8人の「内部通報者」の一人で、マスコミとネットユーザーの関心を集める身、全国的な注目を集める時の人であるから、ひとたびコロナウイルス新型肺炎と診断されれば体制にとっては大きな恥辱となる。病状を意図的に隠そうとする姦計も生まれるのではないか? もしそうなら、李医師は謀殺されたことになる! 「大局こそ重要」の考えに慣れきった体制を目の当たりにするとき、彼らは個人の犠牲の上に社会の安定を粉飾するのだと考えても私はいささかも暗い気持ちにならない。彼らは国の安定的な統治を維持するためとして後ろ暗い事に手を染めたことがある。過去も現在も、そして未来も。  続いて起きた出来事は、私の猜疑を証明できないまでも、彼らの邪悪さを証明することになった。  午後10時半ごろ、すなわち「環球時報」が李医師の訃報を発した1時間後、その微博上の投稿は削除された。訃報には「複数の関係者に証拠を求めたところ」のような字句があったのではないか? 「環球時報」は権威ある大メディアではないか? 私は当然ながら李医師がまだ生きているから、まだ治療中であるからニュースが削除されたのであればと願った。ニュースがガセであってほしいと望んだ。奇跡が起きてほしいと。  そこで私は急いで微博じゅうを検索してみた。すぐにこんなメッセージが見つかった。「ウイルス流行の内部告発者である李文亮医師はいまだに緊急治療中である。彼のために祈ろう」。このメッセージの発信者は武漢中心病院の医師だった。しかし、それを僥倖と受け止めるわけにはいかなかった。メッセージには「彼は生死の境にいる」という表現もあったからだ。私は怒りが込み上げた! 体制についての私の理解に従えば、ほとんどうなずける話である。彼らはまさに今、遺体をさいなんでいる。なんと邪悪なことか。 ■同僚たちの情報発信  さらに2月7日午前2時すぎ、私は中心病院から流れ出したいくつかの情報を目にした。それらの発信時間はどれも6日午後11時ごろだった。 「8時半危篤。無理やり挿管、生きながら責め苦を与えられる。死して後に挿管、ECMO(体外式膜型人工肺装置)すべて試される」 「幹部は言う。まだまだ蘇生処置を施すのだ、彼が死ぬと面倒なことになる、もう少し頑張らなければならない、たとえだめでも、一つのポーズとして。微博にうずまく憤怒は大地を揺るがすほどのものだ」 「メッセージを見たとたん私はデマだと思った。もどかしく防護服に着替え呼吸科のICUに駆け付けると、そこで見たものは血の気のない一体の患者だった。いまだ心臓マッサージ機が打ち続け、同僚たちが周囲を取り巻いていた。ECMO? 何か意味があるのか。心肺は停止して久しい。すでに意味はないのだ……」  明らかにこれらは武漢中心病院の医師たちだ。李医師の同僚たちが情報を発信したのだ。すべてに目を通した私はソファの上で声にならず泣いた。ウィスキーをしこたま飲んで落ち着きを取り戻した私は自分に言い聞かせた。「何かしないわけにはいかない」 ○阿坡(A.PO)/一武漢市民。77日間の武漢都市封鎖(ロックダウン)を経験し、この手記を執筆。「阿坡」は本名ではない。全世界に多大な迷惑と災難をもたらした新型コロナウイルスについて、一人の健全な精神を持つ中国人としてお詫びの気持ちを表すために、英語の「apologize(お詫びする)」から取った。全世界の国々が中国からのお詫びを待ったとしても、それが述べられることはない。だか、この名前を用いて手記でお詫びの気持ちを表したいと考えている。 訳:kukui books ※AERAオンライン限定記事
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