美術館もある上野公園は、好きな場所だ。うれしい時も人との関係に悩む時も、ここに来た(撮影/加藤夏子)
美術館もある上野公園は、好きな場所だ。うれしい時も人との関係に悩む時も、ここに来た(撮影/加藤夏子)
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 お笑いといえば吉本興業が幅を利かす当世で、ザ・ニュースペーパーの笑いは一味違う。社会風刺コント集団を名乗り、政治ネタが売りだ。新聞からニュースを拾い、芸能人の騒動も、社会問題も、世の中を斜めに切って、客と一緒に笑い飛ばす。アベ首相役を演じている福本ヒデも人気の役者となった。生まれ育った広島の山里の原風景を背負い、舞台に立つ。

 東京・銀座8丁目の博品館劇場。年末恒例の「ザ・ニュースペーパー年納め公演」が開かれていた。前売り券は、発売と同時に電話が殺到、瞬間蒸発ではけてゆく。「劇場でしか得られない笑い」という評判が観客を熱くする。替え歌やパントマイムを交え、15分ほどのコントが、次々に展開される。国会を賑わした「桜を見る会」は内閣府の地下室が舞台に。深夜、人目を忍んでやってきたアベ首相とスガ官房長官がシュレッダーの前で鉢合わせする。

「ほう、これがあのシュレッダーですか」「最新式だそうで。是非見ておきたかった」

 世間に出せない書類はたちどころに処理してしまう高性能シュレッダーは、最後はスガさんまでのみ込んで細断してしまう。官房長官がこれから直面する状況を、暗示するかのようなコントだ。

「パーティー料理が5千円は安すぎると、民主党は言いますが、そんなことはありません。私だから5千円なんです。私、だから。民主党なら1万円ですね。共産党だったら1万5千円でしょう」

「ネットに『ゆるみ、たるみ、おごり』と入力すると、今では『自民党』が出てきますよ」

 軽妙なやりとりが客席を沸かせた。

 アベ首相を演ずる福本ヒデ(48)は、いまや一座に欠かせない存在になった。今回も、サワジリエリカ、イシバシゲル、テロバイトの学生など、ほぼ出ずっぱりで役をこなした。

「ザ・ニュースペーパーを取り上げるなら、私ではなく松下アキラさんでしょう。演技、存在感、人生経験、声、肉体、どれをとっても。私なんか、たいしたものじゃない。ここにいるのもアキラさんとの出会いがあったからです」

 取材を始めたころ、福本はそう語った。彼の演劇人生は松下抜きには語れない。そのことは後で触れるとして、まずザ・ニュースペーパーとは――。

■世間の自粛ムード逆手に、次々にコントを生み出す

 劇団「民藝」出身の渡部又兵衛(69)が率いる男ばかり10人のコント集団。1988年11月、仲間と共にザ・ニュースペーパーを旗揚げした。「風刺コントはニュースの本質を伝えるものだ」と渡部は言う。「昔のような毒がなくなった」という声もあるが、客層は広がり、ファンは着実に増えている。

 冷たい雨が降る12月初旬、博品館公演に向け「ネタ合わせ」が東京・中野の稽古場で行われていた。

「桜を見る会だけど、総理主催でしょ。好きな人を呼んでなぜ悪いの」

 演出の寺田純子(66)が挑発的に問う。「議論すべきは日米貿易交渉ですよ。こっちが陰に隠れてしまったのが問題だ」と若手の土谷ひろし(42)。福本が「沢尻エリカの逮捕はサクラ隠しと言われたが、サクラは日米交渉隠しに使われたんでしょう」と突っ込む。

サイレントマジョリティーは怒っていないわよ、サクラなんて」と寺田。山本天心(57)が「今日の新聞では『首相の説明に納得できる』と答えたのは17%だった。しかし、寺田さんみたいな人が17%もいたとは驚きだね」。

 議論というより、ニュースの奥を読む頭の体操。どんなコントができるのか、と身を乗り出したら、「ではこのへんで、あとは劇場で」と退席を促された。皆でコントを創る場は、舞台への貢献を競い、自らの出番を固める。稽古は陣取り合戦でもある。

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