食事シーンの演出作法 重要10か条 (1/3) 〈GALAC〉|AERA dot. (アエラドット)

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食事シーンの演出作法 重要10か条

特集 「食べる」ドラマ

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鴨下信一GALAC
●かもした・しんいち
1935年東京都生まれ。58年東京大学美学科卒業、TBS入社。数多くのドラマ・音楽番組を演出。主な作品に「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」「高校教師」「東芝日曜劇場」など。舞台演出に「白石加代子・百物語シリーズ」など。

●かもした・しんいち 1935年東京都生まれ。58年東京大学美学科卒業、TBS入社。数多くのドラマ・音楽番組を演出。主な作品に「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」「高校教師」「東芝日曜劇場」など。舞台演出に「白石加代子・百物語シリーズ」など。

 ホームドラマ全盛の時代に数々の名作を世に送り出した演出家の鴨下信一氏。食事のシーンを重要視した氏の演出作法について自ら分析してもらった。

 〈君がどんな食事をしているか、言ってくれ給え。そうしたら君がどんな人間か、ぼくが言ってあげよう〉……グルメの聖書「美味求真」を書いたブリヤ・サヴァランはこう言っている。そのひそみに習えば〈君のドラマの食事シーンがどんなだか、言ってみてごらん。君の作るドラマがどんなだか、言ってあげよう〉。

 ぼくは〈めし食いドラマ〉といわれたホームドラマの全盛期にテレビ・ディレクターとして過ごしたから、食事のシーンはずいぶん演出した。それも身を入れて撮った。重要なのは次の10か条である。 

①誠心誠意【献立(メニュー)】を作れ。他のことは二の次三の次だ。

 演技指導もカメラ割りも、そんなものはどうでもいい。まず何を食べるか、演出家はそれを決めるのが第一だ。ホームドラマの古典で、中身のことをくどくど書かなくてすむから「岸辺のアルバム」を例にとろう。

 日本の家族崩壊を鋭く指摘したこのドラマには、一家の担い手(ブレッド・ウィナー)の働き過ぎを大きな原因の一つにする。父(杉浦直樹)は会社人間で、家族と一緒の食事をぜんぜんとっていない。あの80年代だ。今日は絶対帰って皆で晩飯を食おうと妻(八千草薫)や子ども(中田喜子・国広富之)と約束するが……。

 さて夕食は何にしよう。中華料理と決めた。中華は〝作り置き〟ができない。一人ぶんだけ材料をとっておいて、魚一匹焼けばいいという和食の真似ができない。食卓を囲む全員がそろわないと始められない。そして大皿に盛って皆でつつくのが定番だ。

 中国の家常料理に、麺を大量に作っておいて、各自自分の好きな汁(海鮮とか肉団子とか、タンメンふうにとかジャアジャア麺ふうにとか)で食べるというのがある。これにしよう。

 ――案の定、父親は帰ってこない。卓上には珍しく出した大丼(どんぶり)に、4、5種類の汁があり、麺も湯気を出している。――はずだったが、冷めかけている。ボソボソと喰べる3人の姿がとても可哀想だった。

 ドラマのこの回はテーマと食事のメニューが一致した成功例だが、もう一つ忘れてはならないことがある。〈食事の全容がずっとテーブルの上に提示されている〉。これが大事だ。

「岸辺のアルバム」では第1回で亭主は会社、子どもは大学と予備校で、家にポツンと一人残った主婦が食事をするシーンがある。ここでは塩鮭の焼いたのが1枚(残せば翌日また食べられる)、これも料理の全容が見えてよかった。中華は最終回、洪水で家を壊された家族が再び絆を取り戻すところでもう一度出てくる。料理はドラマのもう一つの主役なことがよくわかる。 すべてが、〝対応〟しているのだ。

②食事には【音】が肝要だ。

 音の出る料理がいいというのは、彼女自身グルメだった向田邦子さんの説で、なるほど一家そろっての〝スキヤキ〟などは、あのジューッというシズル音がいかにも食事の感じがする。 「寺内貫太郎一家」で、婆ちゃん(樹木希林)が町内の老人会で温泉へ一晩行った留守にスキヤキをやっていると、突然庭先に婆ちゃんが立っている(旅館の料理の冷えて味気ないのに怒って帰って来てしまったのだ)。賑やかな話し声もピタッと止まって凍りついた沈黙の中、ジュウジュウいう音だけが聞こえるのは、まことに悲喜劇だった。

 マナイタのトントンという音、鍋の煮物の煮える音、御飯の炊き上がったフキコボシの音、蓋を取った時のボワーッという湯気の音まで、箸、茶碗のカチャカチャ、チンチンする音まで昔の台所、食卓にはいつも音があった。漬け物、果物、センベイ等の菓子、音の出る食べ物もたくさんあった。

「森光子さんはタクアンをバリバリ音をたてて食べてくれるから好き」と向田さんはよく言っていた。セリフの邪魔にならないようにタクアンやお茶漬けを食べるのは難しい芸だ。(スキヤキの時注意したほうがいいのは、脂のはぜる音で、これがマイクでひろうとすごい轟音になり、しかも後で整音できない。蝉の声と同じで切れ目がないからだ。最初に脂身の多い肉を入れ、後は赤身にすれば少し救える。こんなことを書くのは、後処理が意外と大変だからだ)。

 とにかく食事のシーンの役者はうまそうに大きく口を開いて食べてくれるのが一番。

③役の個性は食べる前の【ルーティン】で決まる。

 ラグビーの五郎丸歩選手以来ビヘイビュアといわれるような事前のお呪いのような準備運動に関心が高まっている。人間の[食べ方]はそんなに個性が出るものではない。その前の段階、箸の取り出し方、持ち方(茶碗の)、すぐにスプーンを使いたがるクセ、食べる前にいちど汁物に箸を浸したり、飲んだりするクセは重要な個性になる(就眠儀式といって寝る前に枕を叩くとか、目覚ましを確認するとかは心理学上ではとても重要な行動様式だ)。


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