●「流通」における融合史 ――TV番組を「ネットの棚」に置く

 最後に「流通」における放送と通信の融合について、その歴史をザックリと振り返ってみたいと思います。

 05年くらいまでは、番組というのは、放送を通じてリビングのテレビに届くというのが唯一の経路でした。しかし、インターネットが登場し、ユーザーが見たいタイミングで番組を視聴することができるオンデマンド配信サービスが誕生しました。初めは1エピソードごとに購入するTVODサービスが主でしたが、11年頃から、Huluが月額課金で動画コンテンツ見放題のSVODサービスを日本で開始。そして、14年からは民放各局が広告付き無料配信であるADVODサービスを開始。さらに15年10月26日からは民放5社による見逃し無料配信公式ポータルである「TVer」が始まったり、全世界で7000万人の会員を有するNetflixが鳴り物入りで日本に参入したりと、「流通」における放送と通信の融合が激しく起こっている状況です。

 これらのなかでも、広告付き無料配信(ADVOD)は、放送局の新たな広告収入源として期待されているのはもちろん、無料で手軽に見られるため、「地上波メディアのプロモーション」や「違法動画駆逐」の手段としても機能することが期待されています。

 TVOD→SVOD→ADVODという「定額化・無料化」の流れは、放送事業者にとっては利益が薄まる嫌な流れに思われますが、致し方ないことだと私は考えます。というのも、コンテンツの価格は消費される場所に依存するからです。ネットで流通するコンテンツのほとんどは無料もしくは月額課金であり、そこに番組という商品を置いた場合、それがどんな名作だろうとも、基本的には限りなく似た形、近い形で消費されることになってしまうわけです。

 最近、テレビドラマの劇場版が製作されることが多くなりましたが、「なんでテレビドラマなのに無料じゃないんだ?」と文句を言うお客さんはいません。むしろ、近年の邦画興行収入ランキングの上位は、テレビドラマから生まれた作品がひしめき合っています。これも「コンテンツの価格が消費される場所に依存する」ことを示していると思います。この流れに逆らうのは、相当難しいのではというのが私見です。

 そもそもテレビ番組という商品を「ネットの棚」に置くというのは、テレビ局の経営側から見れば辛い選択です。というのも、テレビの棚は基本的には6商品(チャンネル)のなかから選んでもらえればよかったのが、ネットの棚には無限の商品が並んでおり、そのなかからユーザーたちに自分の商品を選んでもらわないといけないからです。しかし、ネットの棚の売上は急成長しており、情報産業をやっている私たちには無視できないレベルになっています。

 これまではテレビの棚の売上だけ気にしていればよかったのですが、これからは新しくできたネットの棚にも気を配りながら、両方の棚の売上合計を最大化していくことを考えていかなければいけません。既存の棚の売上だけを見て、いつの間にか、お湯が沸騰していたことに気づく茹でガエルにならないために。

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