●スマホ時代は何が変わるか? ゲーム業界の歴史に学べ

 これまで見てきたように、放送と通信の融合は、「制作」「宣伝」「流通」の3面からジワジワと、しかし着実に進んできています。一方で、インターネット業界では、それとはまったく別の動画の動きが生まれてきています。ユーチューブ上で独自に動画を制作し、広告収入を得るユーチューバーの登場がそうです。

 彼らのなかには、月間1億以上再生を記録し、広告収入で数億稼ぐプレイヤーも現れ出しています。彼らの動画は、テレビや映画のような予算をかけたリッチな動画ではありません。一部のプロ動画クリエイターにはこれを「つまらないクソ動画」と片付けている人がいるようですが、本当にそのように思って無視し続けても、私たちは大丈夫なのでしょうか?

 このことを考えるにあたって、ゲーム業界の歴史を紐解きたいと思います。ケータイが普及する前、ゲームユーザーがゲームを楽しもうとする時、専用ゲーム端末を買うのが普通でした。しかし、ケータイがこの世に登場し、状況が変化しだします。ライトなゲームユーザーを中心に、専門ゲーム端末ではなくケータイでゲームを楽しみだしたのです。その当時、ケータイ上にあったゲームは、中小ゲームメーカーが作る簡単なゲーム。お世辞にも専門ゲーム機よりクオリティが高いとは言えない代物でした。

 その時、大手ゲームメーカーのクリエイターたちが「こんなつまらないゲーム作りたくない」と思ったかは定かではありませんが、結局大手ゲームメーカーは、DeNAやGREEといった新興ベンチャーに携帯端末向けゲームの企画開発で後塵を拝することになりました。

 このゲーム業界の歴史は、私たちテレビ業界にも大きなヒントを与えてくれているように思います。つまり、生活者のモバイルシフトに対応しないコンテンツメーカーは、大きなチャンスを逃し、大ダメージを受けることになるということです。ユーチューバーの動画を「つまらないクソ動画」とテレビ業界が考えていると、大きなしっぺ返しを食らうことになるのかもしれないということです。

 今やスマホゲームはコンソールゲームのクオリティを凌ぐ勢いで成長しています。私たちはゲーム業界の歴史に学び、ユーチューバーが高品質な動画を作る前に、スマホに向けてそれに適した形で動画を打ち込まなければいけないのだと思います。

●やなぎうち・けいじ 制作技術部門、ウェブ動画制作会社「GOOMO」出向を経て、現在はデータ放送制作、番組のデジタル宣伝、無料見逃し配信など、放送局のデジタル戦略全般に関わる。