公共政策やメディアを研究する社会学者が、新型コロナウイルスに直面する日本を概観した。社会の様相を「感染の不安/不安の感染」と呼び、政府やメディア、市民の動きを幅広く検証した。

 公開資料によれば、厚生労働省などは当初、2009年の新型インフルエンザ流行を受けて作った計画に従い、迅速に対処していた。しかしメディアや野党は政府の対応の遅れを批判。感染者が増えるにつれ、政治不信が広がった。すると政権は効果が不透明な人気取り政策を乱発。対策費が増え、人々に被害者意識が残った。

 世間は過去の感染症対策を忘却し、誤認を正す報道は不在。政治は民意におもねり、SNSが悪感情を増幅させる。著者は余剰や余力を意味する「冗長性」を社会が確保するべきだと提言する。的確に現状を分析し、指針を示した一冊だ。

(内山菜生子)

週刊朝日  2020年10月2日号