書評『アーモンド』ソン・ウォンピョン著/矢島暁子訳 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《ベスト・レコメンド》

アーモンド ソン・ウォンピョン著/矢島暁子訳

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長薗安浩書評#ベスト・レコメンド

アーモンド

ソン・ウォンピョン,矢島暁子

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共感とは何か

 今年の本屋大賞・翻訳小説部門の1位となった『アーモンド』のカバーには、少年の顔が描かれている。彼の名はソン・ユンジェ、あだ名は「怪物」。生まれつき扁桃体(アーモンド)が小さく、どんな感情もあまり感じることができない。他人に共感することもなく、その顔はいつも無表情だった。

 作者のソン・ウォンピョンはこのユンジェを語り部とすることで、アレキシサイミア(失感情症)の子どもに世界がどう見えるのか、具体的に描いてみせた。彼は見るものを見えたままにしか受け取れず、誰かが叫んでも、微笑んでも、そこに込められた感情や意図は読みとれなかった。

 それでも、シングルマザーの母親とその母親である祖母は、何とかユンジェが「普通」に見えるようにと、たとえば、「喜怒哀楽愛悪欲」の基本概念を暗記するよう彼と問答をくり返し、対応策を身につけさせた。そんな努力もあって、学校でも集団に溶けこめるようになったが、15歳の誕生日、目の前で母親と祖母が通り魔に襲われたとき、彼はただ黙って見過ごした。

 2人の愛を失ったユンジェの物語は、ゴニという転校生の登場によって大きく動きだす。感情のコントロールが利かない、もう一人の怪物であるゴニとの危険な交流が、ユンジェに共感について考えさせるのだ。

<ほとんどの人が、感じても行動せず、共感すると言いながら簡単に忘れた>

 普通の人々の実態をずっと見てきたユンジェの変容は、私たちの浅薄な態度を露わにする。言葉、共感、愛、行動……これは、少年の成長譚ではすまされない傑作である。

週刊朝日  2020年6月26日号


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