書評『一切なりゆき』樹木希林著 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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《ベストセラー解読 (週刊朝日)》

一切なりゆき 樹木希林著

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長薗安浩書評

他人と比べない

 昨年9月に亡くなった樹木希林の言葉に興味を抱いたのは、葬儀の場面をテレビで見たときだった。そこには喪主の代理として挨拶する一人娘、内田也哉子が映っていた。母を亡くした今、新たな家族のバランスを模索して怖じ気づいていると彼女は語り、かつて母から聞いた言葉を指針として紹介した。

<おごらず、他人と比べず、面白がって、平気に生きればいい>

 樹木が遺した言葉を知り、それは処世訓であると同時に、彼女の女優としての在り方に通じていると、私は思った。映画「万引き家族」で、入れ歯をはずし、ばさばさの白髪を晒して老婆を演じた彼女は、誰にも似ていない女優だった。死期が近いと認めつつ、淡々と、自分の体を通して表現していた。そんな樹木の言葉を編んだ『一切なりゆき』によれば、役作りの目的は、<人間が老いていく、壊れていく姿というのも見せたかった>から。

 他人と比べない樹木は、だから、自分なりによく考える人だった。この本に収録されている多くの金言も、彼女の生いたちや気質や出会いに根ざした思索の末に生まれている。どれを読んでも彼女の人生に裏打ちされた言葉ばかりで、その稀少さが多くの読者を惹きつけているのだろう。とは言え、こんな忠告も彼女は忘れない。<えっ、私の話で救われる人がいるって? それは依存症というものよ、あなた。自分で考えてよ>

 なお、巻末に収まった喪主代理の挨拶文を読むと、樹木の美質が娘にも受け継がれているとわかる。この母の子として育った者にしか口にできない言葉が、快いリズムを刻みながら連なっている。

週刊朝日  2019年3月29日号


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