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屋久島発、晴耕雨読
話題の新刊
2014/09/03 18:01
鹿児島県南の洋上、樹齢千年を超すスギの原生林を擁する世界遺産の地からの島だより。とくれば、表題にも誘導されて悠々の暮らしを想像するのが普通だろう。しかし本書における著者の日々は、激しく忙しい。
東京の大学を卒業後、6年を経て著者は1975年、「帰りなんいざ」と生地屋久島に踵を返した。ヤギを飼い自給自足の無農薬栽培を志すが奮闘空しく営農を断念。電報配達、新聞記者などを経て今は民宿を経営するひとの来し方を伝えるエッセイ集だ。
風呂焚きの炎に見入り、水平線を飽かず眺める。確かに長閑だが、ぼんやり過ごす無為の時間こそが著者を多忙にしたらしい。自然への畏敬の念がわく。鳥虫獣ら命の尊厳に思索は及ぶ。すると大切な何かを捨て、経済効率、利便性優先に傾き出した島の現状が見えてくる。
抗わずにはいられない。合成洗剤使用反対、乱暴な開発阻止運動ほかスポーツ少年団の運営や伝統行事継承のための奔走……。郷土(クニ)を愛する気持ちで連帯し芋焼酎を燃料に盛り上がる著者以下、屋久島のアイコクシャ群像の記でもある。
※週刊朝日 2014年9月12日号
屋久島発、晴耕雨読
長井三郎著


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