書評『オレたちバブル入行組』池井戸潤著 |AERA dot. (アエラドット)

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《ベストセラー解読 (週刊朝日)》

オレたちバブル入行組 池井戸潤著

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長薗安浩#ベストセラー解読

「やられたら、倍返し!」で話題の企業小説

 7月からはじまった連続ドラマでもっとも話題になっている『半沢直樹』の原作が、この小説である。
 タイトルにあるとおりバブル期に都市銀行に入行し、今は大阪西支店で融資課長を務める半沢直樹。支店長命令で無理に融資の承認を取りつけた会社が倒産し、すべての責任を不当に負わされそうになってからの彼の起死回生ストーリーが、テンポよく展開する。その中で描かれる債権の回収方法はもとより、人事評価をめぐる行内の権謀術策や独特の価値観が生々しく、一面的な銀行員のイメージとは異なる、いくつもの実像が浮かびあがる。
 読後、私がそのギャップをもっとも魅力的に感じたのは、半沢ではなく、彼を窮地に陥れる支店長の浅野だった。順調にメガバンクの出世コースを歩み、次のステップのために支店長職についた男の打算と、人生の誤算。誤算を帳消しにするために不正に手を貸し、そこを半沢に突かれて狂わんばかりに不安に蝕まれていく浅野の姿があればこそ、半沢の威勢のいいセリフ、「やられたら、倍返し!」がより痛快に響く。
 主人公の半沢もまた、決して爽快なヒーローとしては描かれていない。不正を働いた者に対しては、ちょっとやりすぎではと思うほど徹底的に、容赦なく叩く。人の見切りも早く、自分なりの算段はどんな手を使っても達成していく。そこがいいと、長くサラリーマンをやっていた私は思う。社外よりも社内に敵が多いサラリーマンの実状を、銀行出身の作者はよく知っている。
 大阪が舞台の融資回収話とあって、どうしても『ナニワ金融道』を連想しがちだが、あの漫画とこの小説が決定的に違うのは、金を貸す側の人事について執拗に言及している点だ。人の事を人が決める難しさ、危うさ……銀行は人事がすべてと諦観しつつも、だから自分が変えてやると野心を抱く半沢直樹は、間違いなく新しいタイプの主人公だ。

週刊朝日 2013年8月30日号


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