この時点で少し男の口元が緩んでいた。しかし、気を抜くわけにはいかない。

「Why did you know it?」(なぜわかったの?)

(イラスト/majocco)
(イラスト/majocco)

「Just look.」(見ただけ)

(イラスト/majocco)
(イラスト/majocco)

 そう言うと、男は手をたたいて笑いだした。どうやら作戦は成功したようである。

 なぜ私がこのような掛け合いを冒頭からしたのか。そこには、私なりの取材テクニックがある。こちらが取材できたかどうかということよりも、まず、自分がどんな人間であるのかを相手に伝えて警戒心を解く、もしくは抱かれないようにしないといけない。

 今回の場合は、友達の紹介で日本から来た、少々面白いやつというのを演じることにしたのだ。結果、私のキャラクターを懇切丁寧に説明するまでもなく、相手に伝えることができた。しかも、会話によって笑いが生まれた。笑ったということはある意味では、最大の譲歩を相手から引き出すことができる。そのため私の取材では、シリアスな状況であったとしても、なるべく冗談を交えて会話を展開させるようにしているのだ。

 実際、この取材のケースでも、そのやり方はうまくハマったといえるだろう。見ればわかることを中学英語のような基本文法で日本人(向こうからしたら外国人)が質問してくるのだ。それで思わず笑ってしまったのだろう。非常に稚拙な手段かもしれないが、言葉が不自由な状況ではそれぐらいの手段しか効果的ではないと思う。そもそも言葉を尽くして話せるだけの語学力があったら、それで苦労するところでもないのだが。

米・ニューヨークの大麻売人に指定された古いビルの一室。テーブルの一角転がっていたのは……(撮影/丸山ゴンザレス)
米・ニューヨークの大麻売人に指定された古いビルの一室。テーブルの一角転がっていたのは……(撮影/丸山ゴンザレス)

 さて、今回はニューヨークのドラッグ取材の序盤のつかみにすぎない。ここからいかにして取材を重ねていったのか、次回からさらに詳しくお伝えしていきたい。

(文/ジャーナリスト・丸山ゴンザレス、イラスト/majocco)

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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