野村主任研究員は「SVBの経営破綻について、FRB(米連邦準備制度理事会)や米国政府は、とりあえず『止血』を行った状態です」としたうえで、こう語った。

「今後、リーマン・ショックのような状況が起こるか、というと、それはないでしょう。銀行業界全体としては十分に健全な状態にありますから。なぜ、そうなったかというと、リーマン・ショックの教訓をもとに十分な自己資本を保有するとか、銀行にさまざまな規制がかけられたからです。あの金融危機では大手金融機関がつぶれ、経済は大きなダメージを被った。そんな事態が二度と起こらないように、金融システムを強化した。特に大規模銀行には厳格な規制がかけられました。ところが今回、SVBの経営破綻が起こってしまったわけです」

ノンバンクのリスク

 大規模銀行に比べて、中堅規模の銀行に対する規制は若干緩いという。

「規制が厳しすぎると自由な経営が阻害され、思ったようにビジネスを展開できなくなるので、中堅銀行は一定程度、大規模銀行よりも規制が寛容だった。ところが、ベンチャー・エコシステムの中で成長したSVBは特殊な経営形態であるとはいえ、今の銀行規制はそのような経営を許してしまったわけです。そこに規制の『穴』があったのではないか。今後、議会も含めて、銀行規制の在り方が議論になってくると思います」

 ただ、米連邦議会の下院では伝統的に企業への規制強化を反対する共和党が多数派である。

「確かにそのとおりですが、少なくとも今回の銀行破綻の前と後では議論のテンションが変わってくるでしょう。銀行規制強化を訴える議員が出てきてもおかしくありません」

 さらに野村主任研究員は銀行だけでなく、銀行以外の金融機関、すなわち「ノンバンク」のリスクに対して金融当局の目が向くのではないかという。

「今回の銀行破綻がどこから発生したかというと、スタートアップ企業に投資していたベンチャーキャピタルだったわけです。銀行は規制に服して経営を行っているから大丈夫だと信じられてきましたが、ベンチャーキャピタルの資金繰りの悪化が銀行セクターに波及して、不安感が高まった。ノンバンクとバンクをつなぐ部分のリスクが明確になった。これをいかに減らしていくか、ということが課題として意識されていくと思います」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)