写真はイメージです(gettyimages)
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「脱・中国依存」を目指す製造業の動きが広がっている――最近、そんな報道を目にすることが増えている。ゼロコロナ政策によるサプライチェーンの寸断、急激な円安、さらに米中の対立激化によるチャイナリスクが背景にあるという。2022年5月、経済安全保障推進法が成立し、政府は国内生産拠点の整備を後押しする。中国の脅威に対抗する米国と足並みをそろえたかたちだ。一方、政府は専門的知識や技能を持ち、国内の会社や研究機関などで働く「高度外国人材」を増やしてきた。その66%(21年)が中国人である。この一見、矛盾する動きをどう考えればよいのか、日本総合研究所調査部の野木森稔(のぎもり・みのる)主任研究員・アジア経済グループ長に聞いた。

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 アイリスオーヤマ、キヤノン、京セラ、パナソニックくらしアプライアンス社……。

 中国にある工場を閉鎖、または生産を縮小した企業名を挙げると、野木森主任研究員は「それはレアケースですよ」と、筆者が思ってもみなかったことを口にした。

「為替に関係ない国内事業に特化した一部の産業とか、需要がなくなって中国での生産をやめるということであって、そのような企業の数は少ないですし、そもそも経済安全保障の話とは関係ありません。中国以外のところでサプライチェーンを築いていきましょう、という政治的な圧力は間違いなく強まっています。ただ、それに基づいて実際に企業が動いているかというと、それはほぼありません」

 円高が定着した1990年代、日本企業の中国への工場移転が相次いだ。現在、中国に拠点を構える製造業は5125社(2022年、帝国データバンク調べ)にものぼる。

 これまで現地に足を運び、ヒアリングを重ねてきた野木森主任研究員は、最近「脱・中国依存」を目指す企業の動きが鮮明になっている、という報道に疑問を呈する。

「確かに中国から工場を移転する企業は増えています。工場の移転先として、東南アジアが結構伸びてきている、という情報をわれわれも出しています。けれど、それが大きな流れとして定着しているわけではありません。さらに工場の国内回帰については、かなり一部の企業に限定されています」 

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