米軍機や軍事基地の撤去を求めて歌う「普天間基地ゲート前でゴスペルを歌う会」のメンバーら
米軍機や軍事基地の撤去を求めて歌う「普天間基地ゲート前でゴスペルを歌う会」のメンバーら

 毎週月曜の夕方、沖縄県宜野湾市には賛美歌が聞こえてくる場所がある。教会ではない。音楽教室でもない。「世界一危険」とも言われる、米軍普天間基地のゲート前だ。誰が、何のために歌っているのか――。

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 銀色のフェンスとガードレールに挟まれた、幅1・5メートルほどの歩道。ガードレール沿いにマスク姿の人たちが並び、歌声を響かせる。目の前は、宜野湾市の中心部に位置する米軍普天間基地。フェンスの前で「NO! OSPREY NO! RAPE NO! BASE」と書かれたのぼりが風になびく。

 10月31日午後6時、通算450回目となる「普天間基地ゲート前でゴスペルを歌う会」の行動が始まった。視界が遮られるほどの土砂降りの中、17人が集まった。ほとんどがクリスチャン。司会が聖書の一節を読み上げ、続いて全員で「勝利をのぞみ(We Shall Overcome)」や「いつくしみ深き」を歌う。雨音にかき消されそうになりながらも、声を合わせる。10年間続く、平和への祈りだ。

 きっかけは2012年、米軍普天間基地への、輸送機オスプレイの強行配備だった。オスプレイは開発段階から事故を繰り返し、専門家から構造的欠陥が指摘されていた。当時、沖縄県議会と県内41市町村全ての議会が、オスプレイ配備に反対する決議や意見書を可決。同年9月の県民大会には10万人余り(主催者発表)が参加し、配備計画の撤回、普天間基地の閉鎖・撤去を訴えた。しかし10月1日、米海兵隊のオスプレイ6機が普天間基地に強行配備された。その後も追加配備が続き、現在は24機に増えている。

 県民大会に参加した牧師の神谷武宏さん(60)=中城村=は、オスプレイの配備に怒りが込み上げた。

「県内の全首長や知事も反対していたのに、配備が強行され、私たちの頭上を飛んでいく。日米両政府が沖縄を軽視、もっと言うと差別している様子を見せつけられた。民主主義は成り立たないのか、と憤りを感じました」(神谷さん)

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尊厳を求めて「弱さの論理」で抵抗する