北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表
北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

「おれのお葬式は小さいのでいいよ。おまえたちに面倒をかけたくないからさ」

 天国からお父さんが優しくささやく葬儀CMなど、家族の悲しみが静かに伝わる良い作品で、うるっときてしまいそうだ。「おれんちのボスの葬式は国一番でやらせてもらう。国民には迷惑をかけるけどな」という岸田さんの独断にのまれる日本社会に生きていると、葬儀CMで泣いてしまうほど、心がもろくなってしまうのかもしれない。

 コロナ禍を意識した葬儀CMも少なくない。「大勢で集まることがためらわれる世の中、家族葬が安心という方が増えています」……そんな、なんてことのない淡々とした葬儀場のCMにも胸がいちいちざわつく。この3年、私も大切な友人や知人を数人亡くしたが、最後のお別れは諦めなければならなかった。そういうときを、この国を生きている人は過ごしてきたのだ。だいたい岸田政権になってから、この国は世界で一番新規感染者数の多いとされる国になり、死者も急増した。初めてのコロナ死者が出た2020年2月13日から22年9月1日までの死者数を見ると明らかだが、安倍さん時代(約7カ月)1467人、菅さん時代(約1年)1万6268人、岸田さんになってから(約1年)既に2万2513人が亡くなった。家族葬で十分、せめて自民党の葬儀でよかったのではないか。

 葬儀CMを見ていると、庶民が葬儀にかける費用は100万~200万円だということがわかる。それだって大出費である。いざというときのために、周りに迷惑をかけないように、自分の葬儀を自分で出すための死亡保険というものも販売されている。

「54歳の私の年だったら、月々490円なんです。いざというとき、家族に迷惑をかけたくないので自分のお葬式代くらいはしっかり用意したほうがいいかなと思っているんです。加入してなんだかとっても安心しちゃいました」

 私と同世代の女性が死後の迷惑まで考えて備えるようなCMを見ると、モヤモヤはもう最高潮に達してしまう。は? 国葬? 自分の葬式代くらい自分で出せば? 死んでまでなぜ16億円もの税金を使うの? 毎月490円のお金を積み立て、自分の葬儀の準備をするようなリアルワールドとのあまりの違いに、衝撃を受ける。

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「民主主義を守るための国葬」とは