元気がでる介護研究所代表の高口光子
元気がでる介護研究所代表の高口光子

自分が50代60代になって子どもたちが独立し、さあこれから自分たちらしい人生を、と考え始める時期は、自分の親の老いに直面し始める時期でもあります。いつまでも元気だと思っていた親がちょっとした失敗をし、「しっかりしてよ」と口にした経験はありませんか。長年、介護の現場に携わってきた介護アドバイザーの高口光子氏は、この言葉が出たら、「親はいつまでも頼るべき存在ではない」と認識を改めるきっかけにしてほしいと訴えます。やがてくる親の介護に備え、早い段階から親と子、それぞれの立場を見直していくべきだと言います。くわしくお話をうかがいました。

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■親のちょっとした失敗に口をついて出る言葉

「しっかりしてよ! おかあさん」

「おとうさん、何やってるの!」

 あなたは老境に差し掛かった親にこんな言葉を発していませんか。

 たとえば出かける際、親がぐずぐず手間取って間に合わない、親が、頼んだ物を買い忘れた、家の中が散らかっていて片付けが追いついていないなど、家庭内のいろいろなシーンで、つい言いたくなる言葉です。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 言ったあなたはうっかりミスととらえているでしょう。自分を育ててくれた親はいつもしっかりしていて、こんなことでミスをする人ではなかったはずだ、という思いがあります。だからこそ、「しっかりしてよ」とおしりをたたくような表現になってしまうのですが、実は、これは親の老いの始まりです。昔できていたことがだんだんできなくなっていく。言われた親は子どもであるあなたに老いた姿を見せたくないので、「まいったなあ」などと言って、うっかりミスであるかのようにふるまいます。でも、あなたはそこで気づくべきなのです。

 どんなに元気な親であっても、いずれ年とともに老い、やがて介護が必要になっていく。そうなってくると、親を支えるのはあなたになり、親の生活と命にかかわる重要な決断を迫られる日が訪れるかもしれないのです。

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高口光子

高口光子

高知医療学院卒業。理学療法士として病院勤務ののち、特別養護老人ホームに介護職として勤務。2002年から医療法人財団百葉の会で法人事務局企画教育推進室室長、生活リハビリ推進室室長を務めるとともに、介護アドバイザーとして活動。介護老人保健施設・鶴舞乃城、星のしずくの立ち上げに参加。22年、理想の介護の追求と実現を考える「髙口光子の元気がでる介護研究所」を設立。介護アドバイザー、理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。『介護施設で死ぬということ』『認知症介護びっくり日記』『リーダーのためのケア技術論』『介護の毒(ドク)はコドク(孤独)です。』など著書多数。https://genki-kaigo.net/ (元気がでる介護研究所)

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