屋根の雪下ろしをする住民
屋根の雪下ろしをする住民

 豪雪地帯の人たちは、冬は街の中心地に移住を――。財務省の審議会・分科会が5月下旬にまとめた提言の中に、そんな政策が入った。地方の住民からは「冗談か?」と首をかしげる声も上がるが、前岩手県知事で分科会の会長代理を務める増田寛也氏は「人口減少が進む中で議論すべき課題」と本気だ。SNSでも「雪下ろしができず、家が潰れる」「積雪地方には住めないと国が認定するのか」とちょっとした反響を呼んでいる。

【資料】増田寛也氏が「こういうのではない」と思わずこぼした冬期集住のイメージ図はこちら

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<冬期に限り地域の全住民が平野部に集住し、地域に至る道路を冬期閉鎖することを合意した場合は、節約した除雪費の一部を居住支援等に活用できるインセンティブを>

<財政負担の効率化と住民の安全・安心な生活の両立を図るための選択肢を検討すべきである>

 財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会がまとめた提言「歴史の転換点における財政運営」に書かれた政策の一部だ。

 資料を見ると、山間部などに点在している住民に、冬の一定期間、街の中心地に移住してもらい、その間、道路を閉鎖し、除雪費を節約するという考え方だ。

 北海道や青森県など特別豪雪地帯がある都道府県・政令指定都市の1kmあたりの道路維持費(2019年度)は113万円で、それ以外の地域では103万円であることが示されている。

 財務省の担当者は「踏み込んだ提案になったのは、背に腹は代えられない現状がある」と話す。

 いわゆる「国の借金」だ。21年度末時点で1241兆円と6年連続で過去最大を更新している。

 除雪費用は、自治体だけでなく国も費用を負担しており、国の負担額を見てみると、19年度は645億円だったのが、20年度に1181億円、21年度に1316億円に増えている。

「家が一つでもあれば、そこまでの道を除雪する必要が出てきます。冬期に集住してもらい、除雪が毎日から2週間に1回などに減れば、国の負担も地方の負担も減ると見ています」(財務省担当者)

冬期集住の説明資料。財政制度分科会がまとめた提言「歴史の転換点における財政運営」より
冬期集住の説明資料。財政制度分科会がまとめた提言「歴史の転換点における財政運営」より
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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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雪国の住民や、むつ市長からも疑問の声