――その一方でロシアは、石油や天然ガスといったエネルギー資源を国際社会のなかで武器として使ってきたわけですね。
いえ、それは少し違います。意外に思われるかもしれませんが、ロシアという国は一般的なイメージと違って、経済を武器にして相手を屈服させようという発想はあまり持っていません。これまで欧米の保守派は、ロシアはエネルギー供給を地政学の武器に使っている、とレッテルを貼ってきましたけれど、現実にはロシアにとってエネルギーはビジネスにすぎず、むしろアメリカが地政学的観点からエネルギーの対ロシア輸入に反対してきたのが真相だと思います。ロシアは、ウクライナやベラルーシといった旧ソ連の構成国に対しては、何かを売らないぞ、買わないぞとDV的に圧力をかけることはありますが、国際ビジネスの世界では基本的にそういうことはやらない国です。それはいまでも変わっていません。
――しかし、ロシア国営のガスプロムは4月27日、ポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給を停止したと発表しました。これは天然資源を武器に、これらの国に圧力をかけたのでは?
ロシア政府はいま、欧州のガス需要家に対してルーブル払いを要求しています。ポーランドとハンガリーがそれを拒否したため、供給を停止したわけです。ポーランドとブルガリアは、かつてソ連の衛星国でしたので、ロシアはいまも格下と見ており、先ほど申し上げたDV気質が作用したのかもしれません。
問題はロシアの厚かましさ
――驚いたのは日本がロシアに対して経済制裁を科すなかで行われたサケ・マス漁業交渉が4月25日にすんなりと妥結したことです。最悪の場合、決裂する可能性もあると思っていました。
今年は例年よりも交渉開始が遅れましたが、ウクライナを巡る対立ゆえに、ロシアが意図的に遅らせたのかというと、よく分かりません。単に、ロシアの外交当局がウクライナ問題で手いっぱいで、なかなか対応できなかった、というのが真相だったのかもしれません。ある意味、欧米や日本と対立しながら対外政策の統一がとれてないというか。ロシアという国の不思議なところだと思います。
――ロシアの経済政策の意図はなかなかわかりづらいですね。
ロシアの経済政策というのは基本的に非常に内向きで、国内的な論理で動く度合いが大きい。欧米や日本とはかなり方向性が違います。これまで述べてきたように、いまロシアは外国企業に対してさまざまな措置を打ち出していますが、その中身を見ると、制裁に報復するというよりは、徹頭徹尾、国内を守るためです。ロシアという国は、今回のウクライナ侵攻のようなとんでもないことをしておきながら、ビジネスは通常どおり続けようとする。むしろ、その厚かましさこそがロシアの問題と思っています。われわれがそれにお付き合いできるわけもなく、ロシアビジネスは撤退を余儀なくされているわけですから。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)