消毒スプレーが設置された飲食店
消毒スプレーが設置された飲食店

「WHOやCDCは空気感染を認め、さらにはモノの表面から感染することはほとんどないとして接触感染はリスクが低いと見ている。アメリカ政府はさらに一歩踏み込んで、空気感染が最も主要な感染経路だとして、これまでの対策を、空気感染を中心とした対策に転換していこうとしているところです」

 今回、感染研が空気感染を明記した背景には、こうした米政府の動向が影響していそうだ。今後の感染対策はどう変わっていくのか。向野氏はこう見る。

「人ごみの中ではマスクをつけたほうがいいが、一人で散歩をする程度なら、屋外でのマスクは不要ですね。パーテーションは空気の流れを計算して設置しないと、空気の流れを阻害し、感染リスクを高めてしまう。飲食店でも適切に換気されて、正しい空気の流れがあれば、頻繁なテーブルの消毒などは過剰な対応ともいえます」

 感染研はこれまでなぜ空気感染について明記してこなかったのか、そして、今回、エアロゾル感染について記した経緯は何か。感染研に尋ねると、次のような回答が書面で返ってきた。

「今回の文書は、新型コロナウイルスの感染経路についてまとめたものになります。これまで当研究所では、さまざまな文書のなかで新型コロナウイルスの感染経路について言及してきました。今回は、それらの知見を整理し、はじめて独立した文書としてまとめたものになります。従いまして、これは既存の知見を整理したものであり、新たな見解を述べたものとは考えておりません」(広報担当)

 理由や経緯について回答がなかったので、改めて尋ねると、次のような回答がきた。

「今後とも、状況によりどの感染経路が優勢かが変わり、どのような状況でどの感染経路が優勢となるかは丁寧に議論していく必要があります。個々の感染の現場でそれらを測定することはできないことが多く、明確にどの感染経路が多いかについて特定することは困難な面があります」「また、エアロゾルと飛沫の定義について(特にその大きさの定義について)国際的なコンセンサスが得られていないことから、用語の定義に関しても国内外で多くの関係者を巻き込んで議論していく必要があります」(同前)

 新型コロナと向き合っていくためには、科学的で明確な情報が不可欠だ。感染研の姿勢が問われている。

(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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