新型コロナ対策分科会で発言を聞く尾身茂会長
新型コロナ対策分科会で発言を聞く尾身茂会長

 オミクロン株が猛威をふるっている。岸田文雄首相は「ワクチン1日100万回接種」「臨時の医療施設の増設」などの取り組みをぶち上げたが、対応は後手に回っている。そんな中、注目を集めているのが、感染症専門家の岡田晴恵氏が昨年12月にまとめた書籍「秘闘 私の『コロナ戦争』全記録」(以下、「秘闘」)だ。田村憲久厚労大臣(当時)や尾身茂分科会長らとのやり取りが生々しく描かれ、コロナ対策の失敗の原因を浮き彫りにしている。

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「現在のコロナ対策は後手に回っています。起こったことに対処する、逐次投入の対応になっています」

 岡田氏ははっきりとこう指摘する。2020年に新型コロナウイルスが感染拡大する初期の段階から、テレビなどに出演し、政府の感染症対策に警鐘を鳴らしてきた人物だ。

 オミクロン株のように、感染力が増強しワクチン免疫を逃避する変異株の出現については、2021年当初から指摘されていた。それにもかかわらず、ワクチンの3回目接種は大幅に遅れ、検査キットは不足、治療薬の確保も間に合っていない状況だ。

 こうした政府の鈍い対応について岡田氏は「これまでSARSやMERSコロナが日本に入ってこなかった。その成功経験からの楽観視があったのでは」と見る。楽観視の背景にあるのは、政府分科会の尾身茂会長ら専門家の存在だ。科学的に提言・助言するために存在する専門家が、首相や内閣官房に適切なリスク評価を伝えていなかったのではないか――岡田氏の問題意識はそこにある。

 「秘闘」ではそんな専門家の姿が当事者とのやり取りを通じて明らかにされている。例えば、東京五輪の開催を控えた21年6月、田村厚労大臣との会話で、以下のような話が紹介されている。

<尾身先生が、それまで『大丈夫だ』と言ってきたのに、急に『ヤバい、危ない』と言動を変え始めたのは1月頃(2021年)だった、こっち(厚労省のアドバイザリーボード会議)でばかり言っていた。(内閣官房の)分科会では言わないんだ>

<だから、内閣官房の方には意見がいかないので、『こっち(内閣官房)は聞いていません』ってなる。しかも、アドバイザリーボードでは、大事なところは尾身先生が『今からは記録しないで』と言ってから始める>

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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なぜ尾身会長は分科会で危機感を表明しなかったのか