【解説】
 お答えします。相談者さんが、父親として息子さんにかけてあげる言葉、それは「3日間、受験のことを忘れて、自分が好きなことをしてごらん」です。

 入試本番までまだ2週間あるのではないでしょうか。そうであれば、ぜひ、3日間くらいサッカーでもキャンプでも釣りでも、息子さんが大好きで夢中になれることを、相談者さんも一緒にやってみてください。これまでも息子さんと一心同体でがんばってきたように。

 もちろん、ひとりでゲームをやりたいと言うのであれば、受験のことを忘れて、ゲームに熱中させてあげてください。その間に、きっと息子さんは自分で、本当に中学受験をやめたいのかどうなのかを考えて、答えを出すと思います。人は、自分で人生の「選択」をして生きていかなければなりません。中学受験は、その一つの「選択」です。相談者さんは、「やっぱりやめたい」と言う息子さんを「受け入れられない」とおっしゃいますが、受験をするかしないか、選択をするのは、息子さんなのです。

 大きな人生の分かれ道に立って、「選択」をするためには、自分を客観的にみつめる時間が必要です。その時間が必要であることを教えてあげることこそが、今、相談者さんが親として注ぐべき愛情だと思います。

『論語』には、弟子・子路が孔子に、「どんな人が、志を持った立派な士だと言えるのですか?」と尋ねる場面があります。孔子は答えます。「切切(せつせつ)偲偲(しし)怡怡(いい)如(じょ)たり、士(し)と謂うべし」と。

「切切偲偲」は、こまやかな親切心で相手の身になって励まし合うこと、「怡怡」はにこやかに和らいだ状態のことで、相談者さんに今求められているのは、この「切切偲偲怡怡」たる、息子さんへの穏やかな愛情です。「がんばれ」と、弱っている息子さんに受験を選択するように強要する行為は、真の愛情ではないと思います。

 中学受験にはメリットがたくさんありますが、人生の「選択」の一つにすぎません。きっと息子さんは、「合格」が受験の「ゴール」だと思っているので、「受験をやめたい」と言っているのではないですか? ならばまず、父親である相談者さんが、「合格」だけが目的ではないことに気づくべきです。息子さん自身が、「志を持った立派な士」として人生を歩んでいくためにも、ぜひ客観的に自分を見つめる時間を与えてあげてください。

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