「慰安婦20 万人説は嘘」のプラカードを日韓の国旗を手にして掲げる男性(提供)
「慰安婦20 万人説は嘘」のプラカードを日韓の国旗を手にして掲げる男性(提供)

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、日本と韓国の国境を越えた“女性嫌悪”について。

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 ソウルの日本大使館前にある「平和の少女像」が建立されてから、11年目の冬を迎えた。「少女像」は、水曜デモ1000回を記念して2011年12月に建てられた。「慰安婦」にさせられた女性たちとその支援者らが、1992年1月の水曜日に日本政府に謝罪を求める声をあげてからずっと、水曜デモは毎週欠かさずに行われてきた。文字通り、嵐の日も雨の日も氷点下の日も、水曜デモは続けられた。11年の間、抗議が行われなかった日はわずかで、そのうちの1日は1995年の阪神淡路大震災であり、東日本大震災後の水曜日には追悼集会が開かれた。

 慰安婦の話しをすると、「反日か!?」と反射的に怒る人は少なくないが、奪われた人生、失われた数々の命の記憶を抱き、必死に声をあげる行為を、「反日」というレッテルで矮小化すべきではないだろう。

「慰安婦」にさせられた女性たちは、事実究明を日本政府だけではなく、韓国政府にも求め続けてきた。日本の植民地支配に協力した人々が権力に座り続けた韓国社会では、責任を取るべき人がずっと許されてきたからだ。声をあげた「慰安婦」女性たちに対しても、「売春婦のくせに」「恥ずかしいから黙れ」とののしる声は、決して少数ではなかった。

 韓国=反日、というような単純な話ではなく、むしろ韓国国内では「親日」が根強く存在し続けている複雑な現実こそ、日本人は直視すべきなのかもしれない。

 特に今年ほど、韓国社会の「親日」の存在を実感した年はなかった。

 衝撃的なことだが、今、日本大使館前の水曜デモの場は、「親日派」の怒声が飛び交う場所になってしまっている。日の丸と韓国の国旗を重ねて「慰安婦はうそつき」とプラカードを掲げる人や、軍歌のような音楽を大音声で流し、水曜デモのスピーチの声をつぶそうとする人々。多くは中高年男性だが、なかには「母親部隊」という名の極右の女性団体も、「少女像」の撤去を激しい口調で訴えている。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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右翼団体の攻撃の場に