京王線の車両を調べる警視庁の捜査員ら=2021年11月(c)朝日新聞社
京王線の車両を調べる警視庁の捜査員ら=2021年11月(c)朝日新聞社

 8日午前9時前、JR本駅と新八代駅を走っていた九州新幹線の車内で、床に液体をまいて火をつけたとして、福岡市博多区の無職、三宅潔容疑者(69)が放火未遂の疑いで現行犯逮捕された。その9日前には、首都圏の私鉄、京王線で手口の酷似した事件があったばかり。8月には小田急線でも刺傷事件があった。なぜ鉄道で似たような事件が立て続けに起きているのか。社会心理学の碓井真史さん(新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授)に聞いた。

【実際の現場】「早く降りなきゃ!」騒然となる乗客たち

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「大きな事件が一度起きると、報道されて社会的な関心が高まります。その後に模倣したような事件が続くことあり、模倣犯の中にははっきりと前の事件を意識したと語る人もいれば、前の事件を超える惨事を起こしてやろうと語る人もいます」(碓井教授、以下同)

  九州新幹線の事件では乗客などにけが人は出なかったものの、注目を集めたのは容疑者の供述だ。報道によると、三宅容疑者は警察の調べに対し「京王線の車内で乗客が火をつけた事件をまねしようと思った」などと供述しているという。

 京王線で事件がおきたのは、10月31日。服部恭太容疑者(24)が、男性(72)の胸をサバイバルナイフで突き刺し、ライターオイルを車内にまいて火をつけたのだ。その服部容疑者は「小田急線の事件を参考にした」などと供述。8月6日に小田急線で起きた事件は、30代の男が刃物で乗客を次々に差し、10人が重軽傷を負った。3つの事件がまるで連鎖するように起きている。

 碓井教授によると、容疑者は取り調べの際、警察から先の事件を「意識したのか」と尋問された結果、答えた可能性もあるとしつつ、「本人が意識していないうちに影響を受けることもある」という。

 「心理学には、他者の行動から学ぶ『観察学習』という言葉があります。例えば、男性が暴力的に女性を自分のものにし、その結果、その女性から愛されて“めでたし、めでたし”となるような映画や物語は、近年、欧米では問題視されて、次第に規制が厳しくなってきています。男性から見ると非常に都合のよい物語ですが、女性側からしたらとんでもないこと。それなのに、映画や物語に触れた男性は影響を受けて、女性と上手く方法として学んでしまうのです。物語ではなく、犯罪報道となるとリアルで目の当たりにして、犯行の方法を学び、『これならうまくいきそうな気がする』と思い始めてしまうことがあります」

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なぜ、放火だったのか