「ベースになっているのは、『認知行動療法』です。認知行動療法は、専門家と対話をしながら出来事に対する受け止め方(認知)と行動のパターンを見直す心理療法で、主にうつ病や不安症などの精神疾患の治療に使われていますが、その内容は予防にも十分活用できる。海外で行われている取り組みも参考にしながら、日本の教育現場に合ったものを作成しました」

 勇者の旅は、子どもたち一人ひとりが勇者になり、豚やカエルのキャラクターと一緒に不安の問題に立ち向かいながら勇者城を目指して旅をするというストーリー仕立て。研修を受けた各学校の先生が声掛けをし、子どもたちがワークブックに書きこむスタイルで授業を進めていく。 

「勇者の旅」ワークブックの内容例
「勇者の旅」ワークブックの内容例

 授業は全10回。いきなり不安から入るのではなく、「嬉しい」「悲しい」「ドキドキ」「イライラ」などさまざまな感情があることに気づく「基本感情の理解」からスタートする。「思いつくままいろいろな気持ちを表す言葉を書いてみよう」「なぜ嫌な気持ちってあるのかな」という先生の呼びかけに応じて、子どもたちそれぞれが考え、ワークブックに書き出す。だんだん不安感情にフォーカスし、不安な気持ちはなぜ必要なのか、どんな場面で不安になるのか振り返ってみる。心臓がドキドキする、汗ばむなど不安を感じると体に起こる変化を知って、リラックスするための呼吸法を練習。後半は不安を大きくしている「考え(認知)」に気づき、小さくする方法(行動)を考えたり、人と話すときに不安にならないような話し方のコツなどを身につけていく。

 毎回、授業で学んだことを定着させて実生活の場面で活用できるように、「自主トレ(ホームワーク)」が設定されている。たとえば「ミラクルポイントをためよう」は、日常生活の中にある小さなポジティブ感情に気づくための自主トレ。「鉛筆をうまく削れてうれしかった」「あいさつをしたらすごく気持ちよかった」というように、自分がちょっと頑張ったこと(ミラクルポイント)を見つけ、その時どう感じたかを書くことがミッションだ。

「不安が強い子はこういう授業を受けること自体、少なからず不安を感じてしまいますし、宿題も『やらないと怒られる』とストレスになる子もいます。対人不安を感じる子どもにも配慮してロールプレーやグループワークは盛り込まず、個人ワークを中心に自分の不安にしっかり向き合い、自分はどんな時にどんなふうに感じるのか それぞれが理解を深められる内容にしています。宿題も強制ではありません。学校の先生は教育のプロで、子どもたちの様子もよくわかっていますから、授業はそれぞれ学級の状態を見ながら子どもたちに最も伝わりやすいと思う方法で進めてくださればいい。『不安の強い子にはくれぐれも配慮する』といった基本的なルールだけにして、あまり細かく授業の進め方を規定しないようにしています」(浦尾さん)

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将来的に不登校の子どもの数が減ることも期待