2019年6月、金融庁が公表した老後の金融資産が約2000万円必要とする報告書が大きな話題となりました。

 結局、あの報告書はなんだったのでしょうか? やはり、老後までに2000万円を用意する必要があるのでしょうか?

『金融のプロが実はやっている最もシンプルで賢い投資の結論』の著者である北村慶氏に、老後に必要となる金融資産について聞きました。

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■金融庁の報告書を素直に読むと

 当時話題となった金融庁の報告書には、次のような記述があります。

「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万円~2000万円になる」

 この試算の前提として、報告書では総務省「家計調査」(2017年)のデータを記載しています。

 平均寿命は男81.1歳、女87.3歳。

 高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の毎月赤字額(実収入マイナス実支出)の平均値は約5.5万円。

 この調査によれば、高齢夫婦の実収入は平均は20万9198円。そのうち年金などの社会保障給付19万1880円で約9割を占めています。

 支出は、26万3717円です。

 支出が収入を5万4519円上回っています。これをもって報告書は、高齢夫婦無職世帯の平均赤字額は毎月約5.5万円としたのです。

 そして報告書は、夫婦無職世帯の平均余命を20~30年とした場合の生涯赤字額を、

 5.5(万円)×12(カ月)×20(年)=1320万円
 5.5(万円)×12(カ月)×30(年)=1980万円

 と計算しています。

■実は、赤字ではない?

 報告書では2017年時点の次の数字も記載しています。

 ・高齢夫婦無職世帯の平均純貯蓄額(貯蓄現在高-負債現在高)2484万円
 ・定年退職者の退職給付額は平均で1700万円~2000万円程度

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実は赤字ではない…なぜなのか?