生活苦にあえぐ人、未来に不安を感じる人、家族を新型コロナウイルスで亡くした人、疲弊しきった医療従事者の声をまったく聞かずに強行される東京オリパラへのストレスが日に日に私の中で大きくなってきている。思えば東京五輪は、東日本大震災の復興の象徴としてアピールされてきた。日本が完全復興した証しとしての国際的な祭典だ。でも、それは事実じゃないことを私たちは知っている。私たちは、いまだに家を失っている人を知っている。原発後に多くの人が自らの命を絶ったことを知っている。私たちはいまだに、原発事故の爪痕のさなかを生きている。東京オリパラを誘致したかった人々は、きっと、日本が生き残るための最善の選択をしたと信じていたのだと思う。でも、ドラマの中で松重豊さんがはき出すように言ったように、私たちはもう、そんな方法では生き残れないのだ。なぜなら、腐りきってるから。私が尊敬する脚本家、渡辺あやさんによれば「生まれ変わるしかない」のだ。

 ウィシュマさんの死は、これまで放置してきた日本社会の腐敗を真正面から突きつけたように私には思える。ウィシュマさんの死を悼み、事実解明を求めながら、同じ力で東京オリパラの勇気ある中止を求めていけたら。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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