放置せずに早めの受診を(写真/Getty Images)
放置せずに早めの受診を(写真/Getty Images)

「え、なんて?」最近聞き返すことが増えてきたけれど、困っていなければ大丈夫と思っていませんか。医師は、聞こえに関して「5つの誤解」があるといいます。現在発売中の『「よく聞こえない」ときの耳の本 2021年版』(朝日新聞出版)から紹介します。

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誤解1 加齢性難聴は生活習慣などで予防することができない

 加齢性難聴の発症には、複数の遺伝的要因と環境要因が関与していると考えられています。ただし、科学的にはまだ詳しく解明されていません。

 加齢にともなう難聴は老化現象の一種であるため、進行を止めることはできないものの、加齢以外の原因を避けるという意味での予防は十分に可能です。騒音環境を避け、生活習慣を見直すことにより、悪化のスピードを遅らせることはできます。

 糖尿病や高血圧などの生活習慣病や動脈硬化を防ぐ生活をすることが、加齢性難聴の予防にもつながります。栄養バランスのとれた食事や適度な運動、規則正しい睡眠、禁煙などを心がけるとよいでしょう。

 環境要因としては、騒音など大きな音が常時出ている環境下に長くいたり、大音量でテレビを見たり、音楽を長時間聞いたりしていると、難聴の原因となることがわかっています。難聴リスクを避けるためには、騒音環境下に長くいることを避けることです。

 世界保健機関(WHO)の基準では、80dBの音量(走行中の電車内の騒音と同程度)で1週間に40時間までを限度としています。工事現場などの騒音性の職場では、難聴予防のため、職員は耳栓やイヤーマフなど防音保護具の着用義務があり、各国のガイドライン基準でもおおむね85dBで1週間に40時間までに設定されています。

誤解2 聞き返すことが多い程度で自分が困っていなければ大丈夫

 加齢によって徐々に聞こえが悪くなってきても、「生活に大きな支障がなければ大丈夫だろう」と思うかもしれません。しかし聞き返すことが多くなってきた場合、そのまま放置してしまうと脳の劣化が進んでしまう恐れがあります。

 脳の劣化が進むと、音としては聞こえていても、ことばとして聞き分ける能力が落ちていきます。聞こえの悪さに気づいたら、できるだけ早めに一度、耳鼻咽喉科を受診し、聞こえの検査をしましょう。

 検査の結果から難聴が認められ、医師から補聴器装用を勧められた場合、補聴器を使って聞こえの改善を図ることで、脳の劣化を防ぐことができます。補聴器で脳を鍛えることで、再びことばを聞き取ることが可能となり、最大限にその能力を発揮することができるようになります。

 ある日、急に聞こえが悪くなった場合などはなんらかの病気が疑われるため、早急に耳鼻咽喉科を受診しましょう。中耳炎などによる難聴、騒音やウイルスなどによる難聴のほか、片耳だけ急に聞こえにくくなる場合は突発性難聴、メニエール病などが考えられます。

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