それを聞いた藤森は、半月ほど悩みに悩んだ末、相方と一緒にいた方が楽しいだろうと思い、自分も事務所を離れることを決めた。藤森が本当は何を考えているのかというのは本人にしかわからないが、「楽しさ」を理由に独立を決めたと言い切るところに彼らしさを感じた。

 オリラジの独立の経緯は、彼らがコンビを結成したときのいきさつに似ている。中田と藤森は大学生の頃にバイト先で知り合った。当時の中田はあらゆるお笑い番組やお笑いDVDをチェックするお笑いマニアであり、いずれは芸人になることを目指していた。一方の藤森は、将来のことなど考えたこともない軽薄な大学生だった。

 そんな彼らはバイト中に話をして仲良くなっていった。そして、中田が大学の学園祭で友人と演じていた漫才の映像を見せたところ、藤森が「面白い」と感動して、中田にコンビを組んでほしいと話を持ちかけた。これをきっかけにしてオリラジというコンビが誕生した。

 コンビを組んでいる芸人にとって「最初にどっちから誘ったか」というのは、あとあとまで尾を引く問題になる。例えば、ナインティナインの矢部浩之が、体調不良で休業してしまった岡村隆史を見捨てなかった理由の1つは「この世界に誘ったのは自分だから」という負い目があったからだという。

 藤森が「楽しそう」という理由で独立を選んだのも、「楽しそう」という理由でコンビを組んだ原点に帰っているというふうに見えることができる。藤森が芸能活動を続ける背景にあるのは「あっちゃんと一緒にいるといろいろ楽しいことがありそう」という純粋な好奇心なのだろう。

 彼らに限らず、芸能人が事務所を離れて個人で活動するケースが増えてきた。かつては「独立=干される」というイメージがあったが、今は少しずつそれも薄れている。公正取引委員会がジャニーズ事務所に対して注意喚起をしたことが話題になったように、芸能事務所の旧態依然とした体質は徐々に改善を余儀なくされている。

「事務所にいれば安心、独立すると不安」というのは一昔前の考え方だ。そもそも芸能は人気商売であり、どんなタレントでも大手事務所に所属していれば将来安泰ということはない。

 絶対的な安心や安全がない世界だからこそ、好きなことや楽しいことにこだわるのが合理的なことだと言える。芸能界や芸能人のあり方がどんどん変わっている時代に、オリラジの2人には新しい生き方を見せてほしいと思う。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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