なぜこんなに単純な構造のネタで爆発的な笑いが起こるのかというと、おいでやす小田のツッコミの技術が圧倒的に優れているからだ。最近のお笑い界では、パワー系よりもセンス系のツッコミの方が主流である。フットボールアワーの後藤輝基が得意とする「例えツッコミ」のように、ツッコミのフレーズを工夫して笑わせるものが目立つ。

 だが、おいでやす小田は声を張り上げて、シンプルな言葉でツッコミをいれる。このように力で押し切るタイプのツッコミができる芸人は、お笑い界広しと言えどもそれほど多くはない。

 さらに、このネタは構成もしっかりしていた。「伏線回収」的な仕掛けもいくつか仕込まれていて、見ていると爽快な気分になる。おいでやす小田のツッコミという武器を最大限に生かすようなネタのつくりになっていた。

 おいでやすこがは、このネタでファーストラウンドを堂々の1位通過。マヂカルラブリー、見取り図と共に最終決戦に進んだ。

 2本目のネタでは、こがけんが英語っぽい言葉でオリジナルのバースデーソングを歌い始める。おいでやす小田にどんなに止められても、歌うのをやめようとしない。歌い続けるこがけんに対して、おいでやす小田があの手この手でツッコミをいれていく。

 1本目のネタがボケとツッコミの応酬で構成されているのに対して、2本目のネタでは「歌い続ける」というボケが終始行われている状況で、ツッコミが自由奔放に躍動する。歌ネタという共通点はあるものの、ボケとツッコミの関係性としては別々の形を見せていた。

 最終決戦の結果は、マヂカルラブリーが3票、見取り図が2票、おいでやすこがが2票。おいでやすこがは1票差で優勝こそ逃したものの、準優勝を果たした。ピン芸人同士のユニットとしては存外の結果と言えるだろう。異色のユニットが大舞台で存在感を見せつけた。

 この日の決勝の前に、彼らは長年の目標としてきたピン芸人の大会『R-1グランプリ』の出場資格を失うという不運に見舞われていた。ピン芸人として路頭に迷っていた中で、『M-1』で見事に結果を出し、未来に希望をつなぐことができた。

 今年の『M-1』で決勝に進んだウエストランドの井口浩之は、漫才の中で「お笑いは今まで何もいいことがなかったやつらの復讐劇」という名言を残した。その言葉通り、『R-1』に出られなくなった2人が最高の形で「リベンジ」を成し遂げた。

 おいでやすこがの大健闘は、見る者に勇気と感動を与え、くすぶり続けたピン芸人の意地を見せつけることになった。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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