巨人・中島宏之 (c)朝日新聞社
巨人・中島宏之 (c)朝日新聞社

 死球やラフプレーをきっかけに両軍入り乱れて大乱闘──。かつてのプロ野球は、こんなエキサイティングシーンが“お約束”だったが、近年は、派手な乱闘も見られなくなり、“闘将”や“暴れん坊”も死語になりつつある。

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 そんななかで、“最後の武闘派”として、今なお強烈なオーラを漂わせているのが、巨人の中島宏之だ。

 西武時代には「キレると止められない」と後輩たちに恐れられ、死球をめぐるトラブルも多かった。

 死球の直後、助っ人投手と壮絶なガン飛ばし合いを演じたのが、2008年11月5日、巨人との日本シリーズ第4戦(西武ドーム)。1対0の4回、先頭打者・中島に対し、グライシンガーの内角直球が肘を直撃する。第1戦でも上原浩治にぶつけられていた中島は、「2度目だぞ!」とばかりにグライシンガーをにらみつけながら、一塁に向かいかけた。

 すると、グライシンガーは「(避けずに)当たって出塁することを選んだのに、なぜにらまれるのかわからない」と逆切れし、怒声を浴びせてきた。無死の走者を出して痛いのはこっちなのに、にらまれる筋合いはないというわけだ。

 これに対し、中島も「向こうは英語で何を言っているのかわからんし、僕も何を言ったか覚えていない。『はあ?』と言う感じで見ていたら、向こうが近寄ってきて。カーッとなった」と戦闘モードに入る。両者はお互いにじり寄り、みるみる距離を縮めていく。

 たちまち両軍ナインが飛び出し、乱闘寸前となったが、巨人の捕手・鶴岡一成と西武の同僚・ボカチカが両者を引き離したので、大事には至らなかった。

 試合再開後、なおも怒りを引きずりながら一塁に向かう中島に、栗山巧が寄り添うようにして、「中島さんの気持ちはわかる。バットでやり返しましょうよ」となだめる。直後、この言葉は現実のものとなった。次打者・中村剛也が、平常心を失ったグライシンガーから2ランを放ち、3対0と突き放したのだ。この一発で流れをつかんだ西武は5対0と快勝。死球への怒りが呼んだ勝利に、中島も「作戦勝ちでしたね」とニンマリ。本当に“作戦”だったかどうかは、???だが……。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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死球にブチギレの中島が…