バラエティ番組で“ビンタ”のイメージが付いた蝶野正洋(右) (c)朝日新聞社
バラエティ番組で“ビンタ”のイメージが付いた蝶野正洋(右) (c)朝日新聞社

 プロレスの醍醐味は『打撃戦』にある。

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 丸太のような腕から繰り出す強烈な打撃には、一撃必殺の説得力がある。また受け止めるための鍛え上げた肉体も見るものを熱くさせる。

 ビンタ、パンチ、チョップ……。打撃技には様々なものがある。

 中には拳を使用した『パンチ』など使用禁止の反則攻撃もあるが、5カウントまで許されるのもプロレスの懐の広さ。名選手ほど反則攻撃を交えつつ、攻撃の流れを作り出すのに長けている。

 基本、反則技とされる『パンチ』の名手は、アントニオ猪木だ。

『ナックルアロー』とも呼ばれ、試合の流れを変える際に多用される。相手を掴み、弓を引くように大きく振りかぶり右拳を相手の額にぶつける。場内を興奮の渦に巻き込む、猪木のレパートリーの1つだ。

『ナックルアロー』から延髄斬り、フォールへの必殺フルコース。新日本が金曜夜8時生中継時代、放送時間ギリギリに収まるこのムーブはファンを熱狂させた。

 テリー・ファンクの『左ストレート』でも会場が大いに盛り上がった。テキサス・ブロンコは流血しフラフラになりながらも、状況を打開するためパンチを放った。ベビー(=善玉)であるテリーの勝利を信じるファンの熱狂を生み出した。

 左腕をフォークで刺されながらも、兄ドリーと共にアブドーラ・ザ・ブッチャー&ザ・シーク組に殴りかかっていったシーン(77年12月15日、東京・蔵前)。そして強烈なパワーを誇るスタン・ハンセン、ブルーザー・ブロディに怯まず出していった左拳。テリーのファイティング・スピリットに何度も鳥肌が立った。

 天龍源一郎の『グーパンチ』も強烈そのものだった。

 左拳を立て続けに相手の顔面に打ち込むスタイルは、まるでボクシングの『ジャブ』。その破壊力は凄まじく、95年12月8日(東京・大田区体育館)の一騎討ちで対戦した神取忍の顔面を腫れ上がらせた。

「覚悟は決まっています」と神取が発言し、「だったらいいよ」と答えた天龍の男気。『グーパンチ』を通じたプロレス魂のやり取りだった。

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シンプルがゆえに“違い”を証明できる打撃も