『チョップ』と呼ばれる手の平横(小指側部分)で殴る技も、各時代に多くの名手がいる。

 力道山の『空手チョップ』は時代を超え語り継がれる必殺技。世界中の猛者を打ち破り、今日へのプロレス道を切り開いてくれた。

 橋本真也の代名詞『袈裟斬りチョップ』も記憶に残る。相手の頸動脈へ手刀を叩き落とす打撃として、橋本の強烈な持ち技だった。

 そして小橋建太の剛腕からの『逆水平チョップ』。05年7月18日、東京ドームで佐々木健介と繰り広げたチョップ合戦は永遠に語り継がれるだろう。

 最後にジャイアント馬場の『脳天唐竹割り』について触れたい。

『16文キック』とともに馬場の代名詞の1つ。この技を出すだけで会場が沸き、試合の流れも変化した。最も有名なのは81年12月13日の東京・蔵前でスタン・ハンセンが全日本初登場を果たした時だ。馬場は乱入の形で現れたハンセンに対し、怒りのチョップを繰り出し額を割った。数ある打撃技の中で最大破壊力なのは、この技だったかもしれない。

 MLBの剛腕投手ランディ・ジョンソン(マリナーズ他)の例を出す。160キロを超える真っ直ぐを武器に303勝を挙げたレジェンド。特徴は身長208cmの上背とメジャー屈指の腕の長さだ。

「長身で腕が長い方が指先のスピードは速い。釣竿は長い方が遠くまで投げられるのと同じで、強く速く振れる。また筋力トレーニングで腕が太くなり過ぎると重くなり、速さが妨げられる」(姫野龍太郎氏・理化学研究所『Ballpark奇跡のピッチング術』05年成美堂出版)

 物理上では腕が長いほど手先を速く振れる。長身細身(身長209cm)で余分な筋肉もついていなかった馬場のチョップの速さは、ずば抜けていたことになる。投球とチョップは異なるが、馬場は元巨人の投手だったというところも興味深い。

 現実世界で味わうことのできないものをプロレスには求める。だからこそ打撃戦の『撃ち合い』は、究極のエンターテインメント。音、飛び散る汗、表情。見ている側にも痛みが伝わってくるが、これらは日常では決して味わえないものだ。レスラーたちの強靭な肉体とタフな精神力にはあらためで脱帽する。(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。